「病院選びで一番大切なのは看護師」「看護師数が最も充実している県は…」医師が提言 「大卒看護師10%増加で死亡率は5%低下」という調査も

ドクター新潮 ライフ

  • ブックマーク

医師数はメキシコ以下?

 では、どうして医学部は偏在するのか。話は明治維新の時代にまで遡ります。

 全国各都道府県にある国立大学のうち、医学部が存在していないのは和歌山、奈良、神奈川、栃木、埼玉、福島、岩手の7県。共通するのは江戸幕府の将軍家・徳川家にゆかりのある土地ばかりだということです。和歌山は言うまでもなく御三家の紀伊徳川が治めていた土地ですし、奈良、神奈川、埼玉は幕府の直轄領でした。栃木には日光東照宮があり、福島・岩手は戊辰戦争で幕府側についた賊軍です。

 医師数、看護師数とも圧倒的に不足している茨城県も御三家の一つである水戸徳川が治めた土地。今でこそ国立の筑波大学に医学部がありますが、1973年に筑波大学の誘致に成功するまで、茨城県内に医学部はありませんでした。14年当時のデータですが、茨城県内で人口当たりの医師数が全国平均を超えていたのは筑波大学のあるつくば市周辺のみ。それ以外の約90%の地域で、人口当たりの医師数が中所得国であるメキシコの平均をも下回るという惨状でした。

 こじつけだろうと思われるかもしれませんが、そうとも言い切れません。大学というのは明治時代になってある日突然、できたものではなく、多くが江戸時代の藩校を引き継いでいる。戊辰戦争の戦後処理で冷遇されたり混乱をきたしたりした地域の多くで、藩校が解体され大学へと移行せず、医学部の設置に出遅れた地域も多かったのです。

東京に住んでいても、都心でない限り…

 さて、医師の養成機関である医学部の数では全国随一の東京ですが、実は、東京やその近郊にも歴然とした地域差が存在しています。

 さきほど東京の人口当たりの医師数は全国平均を超えているという話をしましたが、東京のベッドタウンである埼玉、千葉、神奈川はいずれも全国平均を大きく割り込み、その水準は南米や中東並みです。

 さらに東京都内に住んでいるからといって安心はできません。都内の医療機関にも極度の偏在が見られるからです。

 東京の医師の多くは都心部に集中しており、同じ都内といっても江戸川区や足立区などの東部、それから多摩地区などの西部の医師数は少なく、人口当たりの医師数はこちらも中所得国のトルコと同じくらいです。

 都内の医師が偏在するのは、やはり医学部が偏在しているためです。13の医学部のうち慈恵医大、慶應大、東京医大、東京女子医大、日本医大、順天堂大、東京大、東京医科歯科大の実に8大学が都心部の新宿区、文京区、港区に存在しているのです。

 医師数がトルコ並みとお伝えした23区東部・東北部や西南部は人口100万人を優に超えますが、医学部が一つも存在せず、400万人以上が住む23区外にも一つしかありません。結局、東京に住んでいてもよほど都心でない限り、医療難民に陥る可能性は高いのです。

次ページ:地域ごとに養成するほかない

前へ 1 2 3 4 5 次へ

[4/5ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。