沖縄もいずれ「中国領」と書かれてしまう? 中国政府発表の新地図でついに「台湾が領土に」
勝手に書いた「線」
さて、今回発表された「2023年版標準地図」を改めて見てみよう。
私がとくに注目したのは「台湾」だ。前述の通り新地図では、従来から中国が主張してきた「九段線」に加えて、台湾東部に新たに1本線を引いて、「十段線」とした。
これは中国にとって極めて重大な決断だった。というのも、この「十段線」の背景には、戦前から続く長い変遷があるからだ。
最初に南シナ海に「線」を引いたのは、1936年、古地図学者の白眉初(はくびしょ)だった。その前年、国民政府は、英語版の中国地図を中国語に翻訳して官報に載せた。だが、南シナ海の島と暗礁は100以上あり、複雑に入り組んでいて分かりにくい。
そこで白眉初は高校生用地図帳を刊行する際、赤と黒のペンを使って、官報の地図にある島と暗礁を囲った。それを自分のオリジナル地図として、「海疆南展後之中国全図(かいきょうなんてんごのちゅうごくぜんず)」と命名。「明清時代から南へ展開した中国の地図」という意味である。「1936年の最新中国地図」と、ただし書きもつけた。
これを見た国民政府は学者先生のお墨付きをもらったと喜び、47年、白眉初の地図を使って「南海諸島位置略図」を制作し、公式地図とした。ひとつだけ違ったのは、白眉初が赤と黒のペンで書いた「線」を「破線」に替えたことだ。その破線が11本あったことから、十一段線」と呼ばれた。
なぜ11本だったのか。何も考えずに破線を引いたら、たまたま11本になっただけかもしれないという研究者もいるほど、根拠は不明だ。
「重大な欠陥」
この「十一段線」を「九段線」に変えたのは、あの毛沢東だった。53年、中華人民共和国が樹立(49年)して間もない時期である。
中国の数少ない承認国であった北ベトナム(当時)に友好関係を示すため、毛沢東はベトナムのトンキン湾と広東省との陸地にまたがる破線を2本消した。これが「九段線」の由来である。
今日まで、中国が南シナ海の領海権を主張する最大の根拠としてきたのが、この白眉初の「海疆南展後之中国全図」と、国民政府の「南海諸島位置略図」の二つだった。だが、これには「重大な欠陥」があった。
実は、白眉初の地図にある「線」は、台湾と中国大陸の間にある狭い台湾海峡に引かれていて、台湾が中国領になっていないのだ! 台湾は、日清戦争で日本に割譲されたため、地図が制作された36年の時点では日本領であって、中国領ではなかったからだ。
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