“時政パパ”の坂東彌十郎が今度は歌舞伎座の水戸黄門に主演 本人は「みなさんの期待に応えられる役者でいたい」

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48年ぶりの公演

 こうして父子で黄門役を演じることになった彌十郎の歌舞伎座公演。その内容は、水戸光圀(彌十郎)が助さん・格さんとともに讃岐の藩主・松平忠頼を訪ね、陰謀を暴くというもの。讃岐だけにうどん屋も重要な舞台となり、店の娘・おそでを彌十郎の息子の坂東新悟(32)が演じる。老公一行は悪者退治とともに、うどん屋の娘の幸せにも一役買うことになる。

 この作品は、昭和50(1975)年、歌舞伎座で当時恒例だった「萬屋錦之介公演」で初演され、17代目・中村勘三郎(1909~1988)が黄門様、萬屋錦之介(1932~1997)と中村嘉葎雄(85)の兄弟が助さん・格さんでている。実に48年ぶりの復活ということになる。17代目勘三郎は、好太郎と子供時代から仲が良かったという。

 脚本を手がけたのは宮川一郎(1925~2008)。宮川はTBS「ナショナル劇場」の「水戸黄門」第1部を手がけた脚本家で、かの印籠シーンを定着させた仕掛人の一人でもある。私はかつて宮川に「『水戸黄門』が長く愛されるのは、家族みんなで安心して観られるシリーズになったから。勧善懲悪でスカッとするところと、ご老公を中心としたホームドラマの楽しさがあるところなんだよ」と聞いた。

 光圀の息子・忠頼が高松藩主になっていたのは史実。ドラマなどでは、光圀は初代・高松藩主となった自分の兄・松平頼重を差し置いて水戸藩主になったことを申し訳なく思い、兄の子・綱條を自分の後継者として水戸藩の藩主とし、忠頼を高松藩に送ったと描かれることもあった。この舞台でも、光圀が天下の副将軍として世直しをする顔と、遠く離れていた息子と再会する父としての顔を楽しめそうだ。

 彌十郎は佐野浅夫と里見浩太朗のTBS版ドラマ「水戸黄門」にゲスト出演している。佐野版では仙台の悪代官、里見版では忍びの里の平和を志す甲賀の頭目だった。先ごろ亡くなった市川猿翁がてがけた「スーパー歌舞伎」では、ダイナミックな演技を見せ、立ち回りも得意。「鎌倉殿」には山中で敵兵を斬って捨てるシーンもあった。

「こどものころから、父の時代劇の立ち回りシーンは大好きで、とても楽しかったです。歌舞伎と違って、ロケ地で足場の悪い中、カメラを意識して立ち回りするのは難しい。時代劇の経験豊富な片岡愛之助さんには、助けられました。もっともっと経験を積みたいです」

 趣味はスイスの旅で、取材では「きれいな景色に感動することは、役者の糧になります」とにこやかに山歩きの楽しさを語ってくれた。リアルに健脚のご老公なのだ。

「映像の仕事を経験して、僕を『父上』とたてながら支えてくれた小栗旬さんはじめ、自分はたくさんの人に助けられて、ここに立てていると改めて感じました。もちろん歌舞伎の舞台もそうです。ドラマで初めて僕の存在を知ってくれた方も多い。それがきっかけで劇場に足を運んでくださる方が増えたら、大きな喜びです。悪役もぽんこつ親父もいろいろやってきましたが、みなさんの期待に応えられる役者でいたいです」

 光圀役では、「鎌倉殿」の時政でも魅せたおおらかさと、どこかとぼけた面白さが活きるはず。約半世紀ぶりの歌舞伎座版「水戸黄門」に期待したい。

ペリー荻野(ぺりー・おぎの)
1962年生まれ。コラムニスト。時代劇研究家として知られ、時代劇主題歌オムニバスCD「ちょんまげ天国」をプロデュースし、「チョンマゲ愛好女子部」部長を務める。著書に「ちょんまげだけが人生さ」(NHK出版)、共著に「このマゲがスゴい!! マゲ女的時代劇ベスト100」(講談社)、「テレビの荒野を歩いた人たち」(新潮社)など多数。

デイリー新潮編集部

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