かつては「面白くない芸人」扱いも お笑い界の七不思議「陣内智則の若者人気」を読み解く

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「スベリ」と共に歩んできた芸人人生

 陣内は、長くテレビの第一線で活躍する売れっ子であり、実力者であるには違いないのだが、先輩芸人からはしばしば「スベリキャラ」という扱いを受けることがある。年始特番の「ドリーム東西ネタ合戦」(TBS)でも、MCのダウンタウンからそのスベりっぷりをイジられたことがあった。

 ただ、言うまでもないことだが、お笑いの世界では本当に面白くない人に対して「スベっている」とは言わない。そう言われて面白くなるようなキャラクターを持っているからこそ、先輩芸人からそのような「かわいがり」を受けることになるのだ。

 ただ、彼のキャリアを振り返ると、そもそも陣内という芸人は「スベリ」と共にここまで歩んできたと言える。

 デビュー当時の彼は、幼なじみの相方とリミテッドというコンビを組んでいた。彼らが活動していた当時の大阪では、気鋭の若手芸人同士が笑いの真剣勝負を繰り広げていて、それぞれが芸人仲間にも観客にも厳しくジャッジされるような雰囲気があった。

 そんな中でリミテッドは思うような結果を出せなかった。スベってしまうことも多く、周囲の芸人からも「面白くない芸人」という扱いを受けていた。挙げ句の果てには「リミテッドを見ると不幸になる」という噂が流れて、彼らがネタをやっている間に観客が全員うつむいてしまうようなこともあった。

 リミテッドは解散することになり、ここから陣内の新たな戦いが始まった。

プライベートでも手痛い「スベリ」を経験

 彼の芸人人生が好転したきっかけは、音声を使った独自の形のピン芸を作ったことだ。

 これが評価されて、数多くのネタ番組に出るようになった。そこから人気が上向いていき、情報番組のMCなどを務めるようになり、一気に人気タレントの仲間入りを果たした。大物女優との結婚も果たし、彼はこの世の春を謳歌していた。

 しかし、ここで陣内はプライベートで手痛い「スベリ」を経験することになった。離婚をしてしまった上に、その原因が自身の浮気であることを認めたため、大バッシングを浴びて人気は急落した。

 しかし、そこからまた彼は這い上がってきた。現在はMCだけでなく、MCを支えるバイプレーヤーとしても重宝されている。

 圧倒的な結果を出した上で、要所要所でスベり続けてここまで来た陣内の「負け芸」は、ベテラン芸人ならではの深い味わいがある。堂々とスベり切る陣内の姿になんとも言えない愛らしさと親しみを感じているからこそ、多くの若者が彼を支持しているのだろう。

ラリー遠田
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。

デイリー新潮編集部

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