世界一「イクイノックス」不出馬で「凱旋門賞」に“日本馬は1頭だけ”のお寒い裏事情
トラック競技とクロスカントリーくらい違う
出走馬が少なくなってしまった背景には何があるのか。競馬関係者が声を潜める。
「ひとつ言えるのは、現在世界ランキング1位のイクイノックス号の参戦見送りです。なんといっても海外を含むG1を4勝している現役最強馬で、今最も凱旋門賞制覇に近い一頭なのですが……。イクイノックスが早々に出馬を見送ってしまったため、全体としてトーンダウンしてしまった感はありますね」
一体なぜ参戦を見送ったのかといえば、
「現在、イクイノックス陣営が目指しているのは、獲得賞金ランキングの歴代トップの座です。現在のトップはアーモンドアイで19億円。一方のイクイノックスは現在15億円弱。1着賞金が5億円のジャパンカップを勝てば、アーモンドアイを凌いでトップに躍り出る可能性が出てくるのです」
無論、凱旋門賞の1着賞金も4億と高額ではある。が、
「そもそも、凱旋門賞の行われるロンシャン競馬場の馬場は、走りやすい日本の馬場とは真逆の悪路なのです。陸上競技にたとえるなら、トラック競技とクロスカントリーくらい違う。そんな馬場で日本馬が勝つためには、とにかく馬も騎手も、現地に長く滞在して慣れることが重要になります。ぱっと遠征してさっと勝てるようなものではないのです。長く日本の馬場に慣れたイクイノックスをわざわざ連れて行き、惨敗されるよりは、慣れている日本の高額レースを目指した方が効率的というわけです」
先々のことを優先
一方、イクイノックスの育成を手がけた大手生産牧場側にも事情があるようだ。
「イクイノックスを生産したのはノーザンファームですので、引退後は系列の社台スタリオンステーションに繋養され、種牡馬として第二の馬生を過ごすことになります。が、ここ数年社台は、ディープインパクトのように血統図を席巻するような、強い種牡馬に恵まれていないのが実情なのです。そんな中、久々に現れたのがイクイノックス。凱旋門賞でぼろ負けして価値を下げ、種付け料が下がるようなことは避けたい。まして故障して繁殖能力がなくなってしまえば元も子もありません。日本馬による初制覇という勲章にチャレンジするよりも、先々のことを優先したということです。また、イクイノックス自身も神経質な性質で、環境が大きく変わることはプラスにはならないという判断もあったと思います」
さらに、イクイノックス以外の馬たちが出走に二の足を踏むのにも理由がある。
「やはり滞在にかかるコストが、円安によってかさんでいるのは事実。もちろんJRAから補助は出ますが、海外遠征はなにかと物入りですからね。馬主さんの懐事情も鑑みて、国内で頑張りましょうという話になったのではないでしょうか」
いずれにせよ、日本の競馬ファンの“夢”は、今年は一頭の牝馬に託された――。