21歳「久常涼」が欧州ゴルフツアーで初優勝 「ビジネスクラスにしちゃおうかな」に現地が沸いたワケ

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プレーヤーズ選手権優勝の翌日に…

 さらに17年には、こんな出来事が話題になった。「第5のメジャー」と呼ばれるPGAツアーのプレーヤーズ選手権を、韓国出身のキム・シウー(28)が、当時21歳の制したことはゴルフ界を大いに驚かせた。

 だが、そんなビッグな勝利を挙げたシウーが、翌日、エコノミー席の3人掛けの真ん中に座って移動していたことは、さらなる驚きのニュースとなってSNSを駆け巡った。しかも、そのフライトは米国内を飛ぶ格安航空会社のもので、とても狭いエコノミー席の3人がけの真ん中の席は、大柄な人なら「身動きができないほど狭い」と感じるほどだった。

 そんな狭い席に平然と腰掛けていたのは、キャップを深めに被ったアジア人の若者。その隣の席に座っていたミドルエイジのアメリカ人女性は、ふとした瞬間、隣の若者が前日のテレビ中継で見たプレーヤーズ選手権の優勝者であることに気づき仰天したという。

「ちょっと、アナタ! 昨日、優勝したキム選手でしょ?」

「オー、イエス! 僕、昨日、勝ちました!」

 当時のキムは、転戦費用を抑えるため、日ごろからエコノミー席を利用していた。そして、ビッグタイトルとビッグな賞金を手に入れた翌日も、いつも通りエコノミー席で移動していたのだ。たまたま隣り合わせた女性がそのことをSNSで発信したことで、全米、いや世界中に伝えられ、キムのファンが急増したのだった。

一流プレーヤーの素質が身に付く

 プロゴルファーは稼いでナンボの商売であり、体が資本のアスリートが大事な肉体を保護・維持する目的でビジネスクラスやファーストクラスを利用すること、あるいはプライベートジェットを利用することはもちろん頷ける。だが選手たちには、まずはそれに見合う経験と実績を積み上げてほしいと心底思う。

「身分」とか「身の丈」といったことを語るつもりはないが、プロを夢見るアマチュアやトッププレーヤーを目指す下位選手が、そのときどきに最適な時間やお金の使い方を考え、学び、実行することは、マネジメント力の向上につながっていき、ひいてはコースマネジメントやゲームマネジメントにも少なからず影響を及ぼすはずである。その一例がエコノミークラスを利用することだ。

 忍耐力の醸成や向上にもつながるだろうし、自分が窮屈さや不便さなどに耐えることで、周囲の人々の気持ちを理解する姿勢も自ずと身についていく。それらはすべて、一流のプレーヤーになる上で求められるものと言っていい。

 表面的に見れば、スター選手や優勝した選手がエコノミー席に乗ったという、ただそれだけの出来事に見えても、その意義を追究していくと「だから彼は素晴らしい」という別の答えが見えてくる。

 久常の「ビジネスクラスにしちゃおうかな」の一言も、そういう意味で大きな反響を得たのだろう。言い換えれば、その一言から感じ取れた彼のプロゴルファーとしての姿勢が「素晴らしい」と世界から評価されたということではないだろうか。

舩越園子(ふなこし・そのこ)
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。早稲田大学政治経済学部経済学科卒。1993年に渡米し、在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『才能は有限努力は無限 松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。1995年以来のタイガー・ウッズ取材の集大成となる最新刊『TIGER WORDS タイガー・ウッズ 復活の言霊』(徳間書店)が好評発売中。

デイリー新潮編集部

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