韓国映画の苦境 「世界一映画を観に行く韓国人」が自国の映画に見向きもせず…日本映画が大ヒットするワケ

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日本映画は本当にヒットしたのか!?

 今年1月に韓国で公開された「スラムダンク」は瞬く間にヒットした。原作を知る中年世代が子どもたちを連れて劇場に行き、映画で初めて「スラムダンク」を知った子どもたちまでもが魅了された。そして、グッズも飛ぶように売れた。

「すずめの戸締まり」の新海誠監督も韓国では人気が高い。監督自身が大の“韓国ツウ”として知られ、韓国の映画ファンから愛されている。

 この2本が韓国でヒットしたことは間違いないが、実際に座席が観客で埋め尽くされたのは公開されてから2ヶ月ほどの間だったという。それ以降はチケットの売れ行きに反して「劇場はガラガラだった」という声もある。その原因は、特典付きチケットにある。

 日本映画をよく観るという韓国人女性がスマートフォンで見せてくれたのは、「すずめの戸締まり」や「スラムダンク」の特典グッズの数々だった。チケット購入の際に特典としてもらえるグッズには、クリアファイルやポスター、キーホルダーだけでなく、中には“新海誠本”なる冊子もあった。

 ファンなら特典付きチケットを買わない手はない。チケットさえ購入すれば特典をもらえるため、映画は観ないという人もいるのだろう。こうしたサービスは日本の映画のみならず、ハリウッド映画にも多く、そのためチケットの売れ行きと実際の観客数は必ずしも一致しないという。

「知っている味だから美味しいと分かる」

 この秋、日本で公開されるヒョンビンの主演映画は2本とも大作だ。

「コンフィデンシャル:国際共助捜査」は大ヒットした前作「コンフィデンシャル/共助」(2017年)の続編だ。昨年韓国で公開されると、前作に続き約700万人を動員した。

 一方、10月に公開予定の「極限境界線 救出までの18日間」は2007年にアフガニスタンで実際に起きた韓国人拉致事件をモチーフにしたアクション大作だ。タリバンとの粘り強い交渉の末、21人の人質が解放されるまでを描いている。いかにも韓国人が好きそうなテーマで期待されていたにもかかわらず、興行成績は芳しくなかった。コロナ前だったら確実にヒットしていたのではないか。

 なぜ「コンフィデンシャル」がヒットして、「極限境界線」は受け入れられなかったのか。この点を何人かの韓国人に聞いてみると、ほぼ同様の答えが返ってきた。

「知っている味だから美味しいと分かる」

 これは韓国の女優が使ったたとえだそうだ。今年ヒットした「犯罪都市3」と同じく、ヒョンビン主演の「コンフィデンシャル」も大ヒット作の続編で、前作を観た人々が続編にも期待して劇場に足を運んだのだという。

 昨年、韓国では映画サイトの口コミについて、“逆バイラル”疑惑が浮上した。逆バイラルとは意図的に悪意の口コミを広める行為のことで、映画投資会社がそうした手段でライバルとなる作品の評価を下げたのではないかと指摘されたのだ。もはや口コミも信用できないからこそ、確実に楽しめるであろう大ヒット作の続編を観に行く。

 このような劇場離れで興行不振が続く韓国では、投資会社が次々と制作から手を引く事態に陥っている。日本でもコロナ禍で人々は映像作品をネット配信で観ることに慣れてしまった。そんな状況にもかかわらず、TOHOがチケットの値上げをしている。隣国で起きていることは他人事ではない。チケット代の値上げがボディブローのように効き、日本でも劇場離れが加速するかもしれない。

 元々、韓国人より劇場に行く回数の少なかった日本人だ。「知っている味だから美味しいと分かる」はおろか、「知っている味だから食べなくても分かる」となる可能性もゼロではない。

児玉愛子(こだま・あいこ)
韓国コラムニスト。韓流エンタメ誌、ガイドブック等の企画、取材、執筆を行う韓国ウオッチャー。新聞や雑誌、Webサイトで韓国映画を紹介するほか、日韓関係についてのコラムを寄稿。

デイリー新潮編集部

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