韓国の“持病”内輪もめが始まった ハンストで抗った野党代表、「監獄送り」を狙う尹錫悦

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妥協の重要性を忘れた韓国人

――内戦なんて起きるものでしょうか。

鈴置:先ほど申し上げたように、光州事件は一種の内戦でした。1987年の民主化闘争も、100万人もの学生が路上で軍事政権と対峙したのです。銃は手にしていませんでしたが。

 この時は翌1988年にソウル五輪を控えていたこともあって政権が要求を全面的に受け入れ、大統領選挙の仕組みを政権側に有利な間接選挙から直接選挙に変えました。

 これが韓国の民主化です。単に制度の変更だけではありません。「国が壊れかけた」恐怖から軍と政党政治家、保守と左派の間に「何とか妥協点を探そう」とのコンセンサスが生まれたのです。

 1998年に左派が初めて政権をとって以来、1期5年か、2期10年の間隔で保守と左派が代わるがわるに政権を担当するようになりました。

「韓国の民主主義は日本を超えた」と日本人に誇る韓国人もいます。基本的には自民党が政権を担ってきた日本には政権交代がなく、これこそは後進国の証拠、という理屈です。

 もっとも、民主化から30年もたつと韓国では「国が壊れかけた」恐怖も、妥協の重要性もすっかり忘れ去られました。銃を持って闘うといった物理的な内戦は起きないとは思います。が、国全体が政争に明け暮れる状況に陥る可能性は十分にあります。というか、もう陥っています。

外交は「やり直し」がきかない

――政争によりどんな問題が起きるのでしょうか?

鈴置:外交で国を誤らせます。もちろん、内政にも悪影響が出ますが、内政はやり直しができる。ところが、外交はそうはいかない。ことに今、世界が流動化しどちらの陣営に与するかを韓国は迫られています。

 尹錫悦政権は親米政策を打ち出しています。しかし、次に左派政権が登場すれば、現在の外交政策をひっくり返すのは確実です。政争というものは、相手を全面否定するものです。左派政権が保守と同じ親米政策を続けるのは難しい。少なくとも親米政策の一端である日本との融和政策は反古にするでしょう。

 それを予測する日本も米国も、韓国を本気で信用しない。米国は尹錫悦政権が望むQuadプラス加盟に冷淡です。日米豪印の対中包囲網たるQuadに韓国をいったん入れてしまえば、従中左派政権に戻ったからといって追い出すわけにいかないからです。

「尹錫悦の韓国」がせっかく親米路線に戻っても、内輪もめにより「揺れる国」である以上、ちゃんとした同盟国には扱って貰えないのです。

 内部抗争が激しくなる一方の現在の韓国は李朝末期と似ています。当時も韓国の指導層は分裂したうえ、それぞれがロシア、清、日本の力を借りてお互いを排除しようとしました。でも、それによりますます内部抗争が深まり、最後は日本の植民地に転落したのです。

 今、韓国人は「李朝末期と比べ格段の経済力を備えた。もう、二度と恥ずかしい思いはしない」と胸を張っています。しかし、安保環境が激変する中、激しい内部抗争に陥って外交を踏み誤る、という構図は当時と全く変わらないのです。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95~96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『韓国民主政治の自壊』『米韓同盟消滅』(ともに新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮編集部

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