韓国の“持病”内輪もめが始まった ハンストで抗った野党代表、「監獄送り」を狙う尹錫悦
不逮捕特権の放棄はウソだった
李在明氏は最後の局面で決定的なミスも犯しました。6月19日には国会演説で「不逮捕特権は放棄する」意向を表明。自分は無実だから堂々と捜査を受ける、との姿勢を打ち出していたのです。
ところが逮捕同意案が国会で投票にかけられる前日の9月20日になって「共に民主党」議員に反対するよう求めたのです。この言行不一致には多くの国民が呆れました。
李在明氏は8月31日「尹政権の強権政治に抗議する」とハンストを始めていました。韓国人はこの手の、情緒に訴えるパフォーマンスに弱い。国民の同情も集まり「共に民主党」を結束させた、と報じられもしました。
しかし、逮捕同意案に反対するよう李在明氏が求めたことで「ハンストも逮捕逃れが目的だった」と見切られました。やってきたことが全て裏目に出たのです。
左派系紙ハンギョレさえも、李在明氏に対する国民の白けムードを克明に報じています。「韓国最大野党代表の『ハンストカード』が失敗に終わった理由とは」(9月25日、日本語版)で読めます。
ちなみに李在明氏は逮捕同意案可決後の9月24日にハンストを終了しました。ハンストの途中で左派が運営する病院に入院したこともあって、「本当に断食しているのか」と揶揄する新聞も出ました。
逮捕状の請求を棄却
――李在明氏は大ピンチ……。
鈴置:日本の韓国専門家――ことに保守派からは快哉を叫ぶ人が登場しました。李在明氏は名うての反日政治家。「日本は敵性国家」と公言し、現在も「福島の汚染水の放流を許すな」と叫んでいるからです。
もっとも、韓国や日本の保守派の快哉は1週間と長続きしませんでした。9月27日未明、裁判所が検察の逮捕状請求を棄却――つまり「李在明氏の身柄を拘束する必要無し」と判断したのです。棄却の理由は「容疑に争いの余地があるうえ、証拠隠滅の恐れもない」ことです。
李在明氏は「人権を守る司法に感謝する」と述べました。「共に民主党」の首席報道官は「尹錫悦政権と政治検察の極悪非道な歪曲・捏造捜査は裁判所の壁を越えることができなかった」「李在明代表を狙った卑劣な検察権行使を止めよ」と反撃に出ました。
検察は当然、「逮捕不可」に不満を表明しました。保守系メディアの読者の書き込み欄には、「左翼判事の不当判決」との非難が溢れました。
保守系メディアは「野党第1党の代表への裁判所の配慮」を指摘する専門家の声を載せました。たしかに李在明氏が次の大統領に当選することを考えたら、裁判官はどんな報復を受けるかと怯え、逮捕状発行を逡巡するに違いありません。
社説もくっきり分かれました。左派系紙、ハンギョレは「検察は李代表への『政治捜査』の反省からせよ」(9月27日、韓国語版)で「無理な捜査だった」と強調しました。
保守系紙、朝鮮日報の「李代表が有罪か無罪かは裁判が決める、国会の非正常をもう止めよ」(9月28日、韓国語版)は拘束令状の棄却に疑念を示したうえ、「まだ無罪になったわけではない」と李在明代表にクギを指しました。
李在明氏の逮捕を逃した検察は、10月初めにも在宅のまま起訴する方針と報じられています。ただ、裁判所が「容疑に争いの余地がある」と検察の起訴に疑問を投げたため、有罪に持ち込むのは難しくなったと報じる韓国紙もあります。
「しょっぴかれる李在明」の姿を国民に見せ「共に民主党」に打撃を与えたかった尹錫悦政権は地団太を踏んでいるでしょう。
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