ジャニーズ会見での「正義の暴走」 望月記者の醜悪な発言が浮き彫りにしたメディアの性質(古市憲寿)
9月7日、ジャニーズ事務所の、性加害問題に関する記者会見が行われた。時間は4時間10分に及んだ。そのほとんどが各媒体との質疑応答だったが、聞き逃すことのできない質問をする記者がいた。「東京新聞」の望月衣塑子さんだ。
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望月記者は数分にわたって持論を披露した後で、東山紀之さんに次のような質問をした。「話していただきたいのは、東山さん自身がデビューする前にですね、ジャニーさんから、加害的なものを、他のメンバーを含めて、加害を受けたというご記憶があるのかないのか」
一言で言って、非常に醜悪な発言だった。この望月記者の言葉の異常さにピンとこない人は、男女を逆転してイメージしてもらえればいいと思う。日本中が注目する記者会見で、48歳の男性記者が、女性タレントに対して、かつて性被害に遭っていたかどうかを執拗に問い詰める。「私、あなたのファンだったんです。あなたもレイプされたんですか」と聞くようなものだ。すでに本人が否定しているにもかかわらず、である。
本人の同意なく、性自認や性的経験を暴露する行為をアウティングという。性に関するセンシティブな話題は、本人が告白・告発するのと、他人から強要されて発言するのでは、全く意味合いが違う。近年では、職場でのアウティングがきっかけの退職に対して、労災認定が下りたケースもある。
望月記者の質問は、下品な野次馬精神と暴走した正義感が、最悪の形で入り交じっていた。事件の真相を解明するという建前で、アウティングにもなりかねない行為をする。「それが記者の仕事だから」といえばそれまでだが、「東京新聞」は人権を重んじる媒体だったはずだ。大義のために個人の人権を侵害していいというなら、それは戦時のメディアと変わりがない。
この会見は各局が中継し、合計の世帯視聴率は関東で20%を超えた。図らずも視聴者は、ニュース番組や新聞記事がどのように作られるかを目撃することになった。
会見では、東山さんと森光子さんとの関係や、藤島ジュリー景子前社長の遺産額を問うような発言もあった。真面目な顔で性加害問題を追及するふりをしながら、実際は下世話な傍観者でしかない。そんな一部メディアの性質を浮き彫りにする会見でもあった。
ジャニーズ問題はどこに着地するのだろう。性加害が絶対にアウトだとして、類似の事案は他の事務所には皆無だったのか。現代の常識で、昭和・平成の出来事をどこまで裁いていいのか。推定無罪の原則を蔑ろにして、私刑のような糾弾がまかり通っていいのか。自分もうわさは知っていたという後ろめたさが転じて、過激な批判につながっていないか(統一教会問題にも通じる)。
ジャニーズ事務所をたたくだけでは、日本における性被害の問題は解決しない。今回の一件で、男性も被害者になり得ることが広く周知された。性別を問わず性被害を訴えやすい環境を作ることの方が、人権侵害までして他人の性被害を聞き出すことよりも重要だろう。