日本で“小衆旅行”を楽しむ中国人観光客が増加中 爆買い、ドラッグストアから意外なスポットへ
温泉も「草津」や「伊香保」ではなく…
福島第一原発の処理水の海洋放出がメディアを賑わしていた9月初旬、中国人の友人Cさん(30代、女性)が観光で日本を訪れた。3泊4日の一人旅だった。どこへ行ったか聞いてみると、やはり小衆旅行だった。
「『東京都現代美術館』のホックニー展がよかった。中国ではホックニーの作品展は難しいと思っていたので、日程を合わせて、まずはそこに行きたいと思ってました。あとは表参道で買い物。通勤に使う、パソコンが入るシャネルのバッグがほしかった。中国より10万円くらい安かった。日本、やっぱりいいものが安いなーと思う。それと、日本橋においしいどら焼き屋さんがあると聞いて。行ってみたら日本人のおじいちゃんおばあちゃんばかりだった。もちろんすごくおいしかったよ」
彼女の口から、中国人旅行者が訪ねる定番であるドラッグストアや家電量販店という話はまったく出てこなかった。
彼女は群馬の温泉にも行っていた。私が、「草津? 伊香保?」と聞くと……。
「たんげ温泉。たぶん、外国人はまったく行かない温泉。だって、宿泊費の支払いにクレジットカードが使えなかったから。でもすごく癒された。本当にいい温泉だった」
日本人の私ですら知らなかった温泉。こういう温泉に小衆は反応する。金はあるけど爆買いではなく、自分が必要なものをご褒美として買って大切に使う。有名観光地ではなく、自分だけの癒しの場所を見つけて帰る。彼女はそんな旅のスタイルを求めていた。
「中国人旅行者を見なくなった」のではない?
Cさんは英語が堪能で、ファッションやメイク、持ち物を見ただけでは中国人だとは気づかない雰囲気をもっている。中国人団体客の来日が足踏み状態のいま、日本人は、「街で中国人旅行者を見なくなった」という印象をもっているようだ。しかし実際は、Cさんのような中国人がかなり日本にやってきている気もする。目立たないだけなのだ。
先日、群馬県高崎市で焼肉店を経営している友人Mさんからこんな話を聞いた。
「この前、ランチタイムに日本語がほとんどできないカップルが来たんです。北京から……っていってたかも。でも、『どうして高崎?』って聞いたら、うちの店のすぐ近くにある公園がどうだとか……。調べてみたら、中華圏で人気のミュージシャンがPVを撮影した場所だとわかったんです。しかも、一般的なファンでもほぼ知らない情報みたいで。日本語ができないのに、ここまでやってきてしまう……そんな旅行スタイルもあるんですね」
普段外国人観光客とは遭遇しないような地方都市では、実は日々そんな出合いや交流があるのかもしれない。
中国の旅行会社が公表する、福島第一原発の処理水の海洋放出後のデータもそれを裏付けている。
中国の大手旅行会社「携程」によると、10月の国慶節の日本旅行関連の売り上げは前月比90%増加。そんな「携程」では団体、私家団(家族や友達だけのプライベートツアー)、フリープランなど2,000種類以上の商品を用意している(『成都日報』2023年9月11日)。
一方、中国人の日本旅行の典型であるバスを使った団体ツアーが減っているという。伸び悩む団体旅行に代わって小衆旅行にシフトしつつある傾向が読み取れる。