日本で“小衆旅行”を楽しむ中国人観光客が増加中 爆買い、ドラッグストアから意外なスポットへ
8月10日、中国政府は日本を含む78か国への団体旅行を解禁した。これで中国人観光客が戻ってくる……日本の観光業界の期待が膨らんだ。しかし福島第一原発の処理水の海洋放出は、その動きに水を差す。中国の政府やメディアは処理水を核汚染水と呼んで非難。日本旅行への予約のキャンセルが相次いでいると報じられている。
【写真】“小衆旅行”の中国人観光客が訪れた意外なスポットの数々
だが中国の人たちは実際、どう思っているのか。ここ数日、上海に住む20~30代の中国人の知人たちに訊いてみた。その返信はこんな内容だった。
「小紅書(中国のSNS)見てないの? 旅行系インフルエンサーたちが皆、日本を発信しはじめていますよ」
「コロナ禍以降、皆、遠出していないから、まずは近場から。だと、やっぱり日本っていう人が増えていると思う。福島原発のことは全員が気にしているわけではないですよ」
「仕事が忙しくて長い休みが取れないから日本。友達と休みが合わないから一人旅。その方が気楽」
行きたい場所を訊いてみると、下北沢、鎌倉、渋谷、北海道などの回答があった。目的も好みの場所もバラバラだった。
高まる「小衆」意識
耳に届く報道内容とはずいぶん違う。処理水か核汚染水かといった論争に関心もない。勝手に日本へ行くといった勢いなのだ。
これが「小衆」意識? そんな気がした。
ここ数年、中国では「小衆」という言葉がよく使われるようになった。大衆の対義語で、「ニッチ」あるいは「マイナー」という意味になる。人々の好みが細分化し、流行に追随するより自分らしいものを選ぶ方がいいと思う発想の人が増えたためだといわれる。旅行も小衆化が進んでいる。若い世代ほどベタな観光地や混雑している場所を避ける傾向にある。
小衆旅行へのシフトは中国国内での報道を見ても明らかだ。
──2023年上半期、中国国内のあまり知られていない各地域の民宿の予約数が平均400%、最高1,221%増加した。「小衆目的地」は若い旅行者に人気だ。理由は、松馳感(リラックス、のんびり、静かに過ごせる)と煙火気(日常味、親しみさすさ、その地域の生活感を感じたい)など(『封面新聞』2023年8月31日)。
この小衆旅行への意識変化は海外旅行にも向けられている。そう考えれば、前述した上海の若者の日本旅行への感覚もよくわかる。中国の恵まれた階層は自由に海外旅行に出かける。中国人団体客が大挙して訪ねる場所を敬遠する。彼らの耳には、爆買い、マナー問題、オーバーツーリズムといった中国人観光客に向けられる言葉も耳に入っている。そんな人びとと一緒にしてほしくない、という思いも潜んでいる。
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