なぜネズミは太らない? コカインより依存度が高い「砂糖中毒」… 科学的な食欲抑制術をプロが解説!

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食器を変えると…

 さらに、食事の方法や内容ではなく、食器を変えることも肥満対策に有効であると考えられます。

 私は視覚神経回路の研究も続けてきましたが、「だまし絵」が存在することから分かるように、私たちの目はだまされやすいものです。その視覚の錯覚を利用することで、比較的少ない食事量で満腹感を得られる可能性があるのです。

 大小のお皿と大小のスプーンの4通りの組み合わせで、アイスクリームを食べる量がどう変化するかを調べるテストが米国で行われました。その結果、「大皿・大スプーン」の人が最も多量のアイスクリームを食べ、「小皿・小スプーン」の人が食べた量が最も少なかった。

 興味深いのは、実際に食べた量は異なっていたのに、4通りのどの人たちも同じ量のアイスクリームを食べたと勘違いしていたことです。つまり、小さなお皿、小さなスプーンで食べると、お皿やスプーンに乗るアイスクリームの量が少なくてもその食器の中では「いっぱい」に見えるので、少ししか食べていなくてもたくさん食べたと錯覚したと考えられるのです。

 また、細長いグラスと、太くて低いグラスに同じ量と思える液体を注いでくださいと言うと、前者のほうが注がれる液体の量が少なかったことも報告されています。おそらく、細長いグラスは液面の高さがすぐに変化するので、少量を注いだだけで「いっぱい入った」と勘違いするからだと考えられます。

 このことから、食事は小さいお皿に盛り、ジュースなどは細長いグラスに入れ、見かけ上の量を多く見せることで、錯覚を利用して飲食する量を抑えることができるといえるでしょう。

10日間で脳は変化する

 最後に、私自身が行っている肥満予防策のひとつを紹介したいと思います。

 私は間食をしないことにしています。間食で野菜を食べる人はまずおらず、糖分の多い甘いものやスナック菓子などを食べる人がほとんどでしょう。当然、間食は肥満につながりやすいので、私は食べないことにしているのです。

 そう言われても、報酬系を刺激する甘いものを我慢できる自信がない。そういった人のために、脳の可塑性の話をしたいと思います。

 脳は変化を受け入れやすい組織で、10日くらい同じことを続ければ、それが当たり前の状態になります。つまり、間食を10日間やめれば、脳は間食しない状態を普通のこととして受け入れ、間食したいと思わなくなるわけです。

 脳の可塑性を自分自身で実証すべく、私はこんなことを試してみました。バラエティー番組の罰ゲームでも使われ、世界一まずいとも言われるサルミアッキという黒い飴があります。主に北欧で食されているのですが、アンモニア臭がすごくて日本人の口には合わず、端的に言うと非常にまずい。私はその飴を10日間食べ続けてみることにしました。

 最初は、「これはひどい」と感じるほどの想像以上のまずさでしたが、10日間食べ続け、なんと今ではサルミアッキが好きになってしまいました。やはり脳には可塑性があるのです。苦手なものが克服できるように、間食しないことも続ければ当たり前のことになるはずです。

 まずは10日間。肥満対策はそこから始まるといえるかもしれません。

新谷隆史(しんたにたかふみ)
サイバー大学客員教授。1966年生まれ。京都大学農学部食品工学科卒業。総合研究大学院大学生命科学科博士課程修了。博士(理学)。基礎生物学研究所や東京工業大学において神経科学と栄養生理学の研究を行う。現在はファーメランタ株式会社研究開発部長として微生物を用いた生理活性物質の発酵生産に携わる。サイバー大学客員教授を兼任。『一度太るとなぜ痩せにくい? 食欲と肥満の科学』などの著書がある。

週刊新潮 2023年9月21日号掲載

特別読物「人間はなぜ太るのか? 『食欲』抑止と『肥満』対策」より

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