なぜネズミは太らない? コカインより依存度が高い「砂糖中毒」… 科学的な食欲抑制術をプロが解説!

ドクター新潮 ライフ

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BMI値が5上がると…

 産業革命が起こり、また近代農法が普及して、普通の人々に広く十分な食料が行き渡るまでは、肥満は一部のお金持ちだけに起きる現象でした。しかも19世紀ごろまでは、肥満は問題視されるよりも、富や、栄養をたくさん取れているという観点から健康の証(あかし)だったのです。

 西洋の裸婦画に描かれる女性はふくよかであり、日本でも平安時代から近代まではやはりふくよかな女性が理想的とされてきました。米国には、太っていることを誇りとする上流階級の結社「ファットマンズクラブ」が存在していたほどです。

 しかし甘いもの、おいしいものが簡単に手に入る現代になると、メタボリックシンドロームという言葉に象徴されるように、太りすぎが糖尿病、高血圧、がん、脳卒中、心筋梗塞といったさまざまな生活習慣病を引き起こし、健康を害することが問題視されるようになります。肥満の研究が本格化したのも1970年代であり、実はその歴史は浅いのです。

 改めて肥満とは何かを定義すると、「体内に脂肪組織が過剰に蓄積した状態」と言えます。食事から摂取したエネルギーが、代謝や運動など生きる上で消費するエネルギーを上回ると「過剰蓄積」が起きるのです。なお、「体重(キロ)÷身長(メートル)の2乗」で算出されるBMI値が25以上だと肥満とされ、東アジア人ではBMI値が5高くなるごとに死亡リスクが約30%増すことが報告されています。

なぜ酸味や苦み、辛みを「おいしい」と感じる?

 いずれにしても、消費エネルギー以上に食べなければ太ることもないわけですが、そう簡単にはいきません。快楽性の食欲が存在するからです。

 脳の前頭葉の中でも、特に人間で発達しているのが、額のすぐ内側にある「ブロードマン10野」という部分で、ここが快楽性の食欲と深く関係しています。このブロードマン10野は、さまざまな情報を統合して善悪を判断し、そしてそれを記憶します。

 おいしいものを食べた時に私たちは喜びを覚え、幸福感に浸ることができますよね? つまり快楽を覚えるわけです。ブロードマン10野はこの体験を記憶し、同じ食べものを目の前にしたり、思い浮かべたりするとその時の記憶に基づいて「これを食べなさい」と命じるのです。

 このメカニズムによって、甘いものやおいしいものを食べた時はもちろんのこと、酸っぱいものや苦いものを食べる時にも人間は快楽性の食欲に影響されています。

 人間はどうして甘味やうま味といった“おいしいもの”だけでなく、酸味や苦味といった本来は“まずいもの”の味も感じ取ることができるのでしょうか。酸味は腐っているもの、そして苦味は毒、つまり人間にとって危険な食材であるか否かを見極めるためです。いわばそれらを避けるための「危険察知センサー」として、人間は酸味や苦味の味覚を残してきたのです。

 そうして危険を察知しながら、それでもなお私たちは酸っぱいものや苦いものを食べます。さらに辛味、すなわち痛みをもたらす食材も人間は食べる。“まずいもの”を私たちは平気で口に入れているのです。なぜでしょうか。

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