女子レスリング日本勢の躍進 「4年前の悔しさ」を忘れず五輪2連覇を目指す須崎優衣と「カワイイ」マウスピースで初五輪を射止めた鏡優翔

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「泣きながら練習してきた」

 最大の試練は準々決勝だった。世界選手権6度の優勝を誇る米国のアデリアン・グレイに鏡は4対1で勝利した。

「アデリアンは双子のお子さんを生んで練習できなかった期間もあったはず。負けられないと思っていた。この子(自分)には勝てないと思わせるつもりだった。7回目(のグレイの優勝)は、私が阻止するつもりでした。ひるむことはなかった」(鏡)

「2対1とかのギリギリの試合では世界一になれない。自分は最後まで攻め続けないと」が信条だったという。

「急成長した中、相手を上回るものは何か?」と聞かれると、鏡は「練習量です」と語気を強めた。

「みんなが昼寝している時でも頑張った。泣きながら練習してきたんです。朝はウェイト、昼はバイク、夜はマットでした」(鏡)

「カワイイ」マウスピース

 山形県出身で、栃木県で育った鏡は、子供のころはラグビーをしていた。レスリングに転向し、中学3年の時にJOC(日本オリンピック委員会)の養成機関「エリートアカデミー」に入り、次々と国内外のジュニアタイトルを獲得した。

 高校時代はインターハイで3連覇を果たし、高校2年の時に全日本選手権で優勝、翌年のアジア選手権でも優勝する。2020年に入学した東洋大学で階級を76キロ級に上げた。一昨年は全日本選手権で優勝したが、昨年は試合中に胸を負傷してしまい棄権。手術のためマットから離れたが、リハビリに取り組んで復帰した今年の全日本選抜選手権を制した。茂呂綾乃(山梨学院大=18)とのプレーオフを勝ち上がって世界選手権のマットに立っていた。昨年の世界選手権は敗者復活戦から勝ち上がり3位だった。

 他の日本選手は試合になると緊張した表情で入場してくるが、鏡はスタンドの応援団に笑顔を振りまきながら入ってくる。スタンドには母親が駆けつけていた。それを聞くと「あとは楽しむだけと思った。緊張もしなかった」と返ってきた。

 いつも上に向かって伸びるひまわりの花が大好きだという。根っからの明るい性格もひまわりそのものの印象だ。最後にUWW(世界レスリング連合)の広報に「パリの印象を一言で」と求められると「エッフェル、あっフランスパン」と笑った。

 はじけた笑顔のマウスピースには「カワイイ」と書かれている。「そんなマウスピースって売っているんですか?」と筆者が聞くと、「特注なんですよ、可愛いでしょ」とのことだった。

「おしゃれして可愛いとかがモチベーションになるんです」(鏡)

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部

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