持続的なコーヒー生産と喫茶店文化隆盛を目指して――柴田 裕(キーコーヒー代表取締役社長)【佐藤優の頂上対決】

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地域色豊かな喫茶店を

佐藤 やはり時代によって好まれるコーヒーは変わってきましたか。

柴田 そうですね。1990年代には外資系カフェチェーンなど「セカンドウェーブ」と呼ばれるシアトル系のコーヒーが日本に入ってきました。それらのコーヒーは普通の喫茶店より焙煎が深いんですね。だから単体で飲むよりもチョコレートやキャラメルなどを入れて飲むことが多い。その深煎りに、いまの日本のコーヒーはかなり影響を受けています。

佐藤 確かに濃くなっている。私もカフェチェーン店では、薄めのアメリカーノしか飲まないです。

柴田 もっとも2010年代には「サードウェーブ」がやってきて、浅煎りで、マシンを使わないハンドドリップ、産地にこだわるシングルオリジンなどが注目されるようにもなっています。

佐藤 どちらかというと、それは昔の喫茶店に近い感じですね。

柴田 その流れの中で純喫茶も見直されるようになっているのだと思います。

佐藤 最近はKEY'S CAFEという店舗が各地にありますね。あれは直営店ですか。

柴田 フランチャイズではなく、パッケージカフェとして、ロイヤリティーをいただかない形で展開しています。2010年に1号店をオープンさせて、現在73店舗あります。

佐藤 どうしてロイヤリティーを取らないのですか。

柴田 もともと私どものお客さまだった方が経営されることが多いのです。例えばイタリア料理店の方が、近隣からコーヒーショップを出してほしいと言われたものの、出し方がわからない。その時、KEY'S CAFEのパッケージを使ってもらえば簡単に開店できます。そうしたニーズがある。また、昔からの看板が道路に置けなくなったこともあります。「アドボード」というのですが、お店やレストランもそうです。

佐藤 道路交通法が厳格化された。

柴田 はい。ですから私どものブランド周知のための店舗という意味合いもあります。KEY'S CAFEには地元の食材を使ってオリジナルのメニューを作っている店も多くあります。福島なら桃を使ったデザート、宮城ならカキのカレーなど、バリエーション豊かです。その地域の喫茶店文化を作り、地域振興に寄与できればとも思っています。

佐藤 キーコーヒーには、その地域と共存共栄していくという経営哲学があるようですね。

柴田 まだまだそこまできちんとできていませんが、そうしていきたいですね。私どもは2020年に創業100年を迎えました。この100年はコーヒーを「誰でも簡単においしく」がテーマでした。その次の100年は何かといえば、それに「楽しく」と「興味深く」ということを加えていきたい。

佐藤 「興味深く」とは、どういうことですか。

柴田 冒頭で申し上げたように、気候変動によってコーヒーの生産地は危機に瀕しています。生活者にはそうした情報も共有していただきながら、コーヒーを楽しんでいただきたいんですね。いまは食品でも洋服でも、それがどこで、どのように作られたかを知って買っていただくという流れができています。そうした関心に応えるべく産地や品種などについて、さまざまな情報を発信していくつもりです。

佐藤 フェアトレードは欧米で進んできましたが、ウガンダの大統領が言うように、長年の植民地支配の残滓がある。いま、その積年の恨みがアフリカ各地で噴出し、それがロシアへの接近につながっているのだと思います。これに対し、日本はインドネシアでもブラジルでも恨まれていません。

柴田 やはり生産地と密にコミュニケーションを取っていきたいですし、おいしいコーヒーをお届けするには、一緒に作っているという意識があった方がいいですよね。コーヒー生産の次の100年を持続可能にするために、コーヒーの未来部をはじめとして、さまざまな働きかけをしていきたいと思っています。

柴田 裕(しばたゆたか) キーコーヒー代表取締役社長
1964年神奈川県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、木村コーヒー店(現・キーコーヒー)入社。購買、営業部門などを経て、総合企画室経営企画課長として上場プロジェクトに携わり、94年に店頭公開。慶應義塾大学大学院でMBA取得後、97年取締役、2000年常務、01年専務を経て02年より現職。

週刊新潮 2023年9月21日号掲載

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