持続的なコーヒー生産と喫茶店文化隆盛を目指して――柴田 裕(キーコーヒー代表取締役社長)【佐藤優の頂上対決】

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ウガンダの異議申し立て

佐藤 地域と共存共栄の形で、事業を進められてきた。そこは非常に重要なポイントです。日本ではあまり報道されていませんが、7月27日にロシアのサンクトペテルブルクで第2回ロシア・アフリカ首脳会議が開かれました。そこで問題提起されたのが、アフリカとヨーロッパのコーヒー問題でした。

柴田 ニュースで会議があったことは存じておりますが、コーヒーが話題になったのですか。

佐藤 そうです。日本のメディアは、ロシアが主催しているからロクでもない会議で、アフリカの首脳もあまり来なかったという報じ方でしたが、そこでウガンダのムセベニ大統領がコーヒービジネスに対して異議申し立てをしたのです。彼は、全世界のコーヒービジネス市場は4600億ドルあり、そのうち生産国に回っているのは250億ドルに過ぎない、アフリカに至っては全体で24億ドルしかない、と指摘しました。その理由は関税です。生のコーヒー豆は1キロあたり2.5ドルで取引されていますが、焙煎、粉砕すると40ドルになる。でもアフリカで焙煎をすると大きな関税がかかるようになっているのです。

柴田 なるほど。

佐藤 この仕組みによって、ドイツはまったくコーヒー豆が取れないのに、68.5億ドルも儲けている。これはアフリカ全体の倍以上だと、ドイツを糾弾しています。

柴田 ドイツはアメリカ、ブラジルに次いで、世界で3番目にコーヒーを消費している国です。つまり大量に輸入し、製造加工をしています。

佐藤 ウガンダは資源国でもありますから、発言力があります。どうもロシアは、焙煎したものをアフリカから買うようルールを変更しようとしていますね。10年スパンで見ていくと、これはコーヒービジネスに大きな影響を与えるかもしれません。

柴田 私どもにはスラウェシ島南西部のマカッサルという港町にコーヒー豆を焙煎して粉砕し、製品にする工場があります。

佐藤 生産地の周辺でもコーヒーはよく飲まれていますか。

柴田 飲まれるようになってきましたね。実は9月1日にジャカルタで、私どもの製品を飲んでいただくコーヒーショップがオープンしたんです。

佐藤 現地の人がコーヒーを味わっていることも非常に重要です。アフリカのカカオ生産地では、チョコレートを食べたことも、ココアを飲んだこともない人が多いんですね。コーヒーにも同じことがある。こうした状態は中長期的には大きな問題に発展していきます。

柴田 私どもは、コーヒーを広めるだけでなく、日本の喫茶店文化自体を世界に紹介したいと考えているんですよ。そのメニューも含めて、海外に届けていきたい。

佐藤 食べ物も、ですか。

柴田 例えば、喫茶店メニューの定番である「たまごサンド」に関心を持つ海外の人たちがいます。フィリピンのマニラにも喫茶店文化が楽しめるコーヒーショップを作ったのですが、そこには日本の喫茶店メニューを取り入れています。豚のしょうが焼きを模したような食べ物もありますよ。

佐藤 考えてみれば、日本の喫茶店のメニューは独特です。

柴田 国内でも世代が変わると、喫茶店メニューが新鮮に見えるんですね。最近、若い人たちにクリームソーダが「珍しい」と人気です。

佐藤 昔の純喫茶のメニューが、新しいものとして捉えられている。

柴田 やはり喫茶店利用者の中心は中高年層なのですが、いま若い人たちが各地の喫茶店を訪ねてブログに書いたり、写真を撮ってSNSに上げたりするようになっています。またカプセルトイで、私どもの看板がラインアップされた「純喫茶ミニチュアコレクション~純喫茶のある風景~」は大変話題になりました。若い人への働きかけをもっとしていきたいですね。

佐藤 喫茶店は、地域ごとに多様な文化がありますね。

柴田 「愛三岐(あいさんぎ)」と呼んでいるのですが、愛知県、三重県、岐阜県の喫茶店は、モーニングが充実していて、昼間にはナッツやお煎餅がついてきたりと、独特の文化が形成されていますね。

佐藤 それに新聞が各紙そろっていて、雑誌や漫画もたくさん置いてある。

柴田 家族で行ったり、自分の家のお客さんをそこでもてなしたり、一種のリビングルームにもなっています。

佐藤 京都にも独特の喫茶店文化が残っています。

柴田 そうですね。私どもは京都の老舗喫茶店「株式会社イノダコーヒ」と提携し、共同開発した商品も販売しています。また昨年、「珈琲とKISSAのサステナブルカンパニー」という新メッセージを制定しました。こうした各地の喫茶店文化を紹介し、どんどん広めていきたいですね。

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