“国営漫画喫茶”批判で一度は頓挫も…漫画界の巨匠「里中満智子」が訴える「あまねくすべての漫画家の原画を保存したい」

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原画の管理をどう行っているのか

――里中先生はご自身の原画を、どのように管理していますか。

里中:現在は空調管理できる部屋を確保し、原画を収めています。自力だけでなく専門業者に頼んでデジタルデータを作成して、自分でデータを保管しています。量が多くてしんどいので、まだまだ大部分はほったらかしになっていますね。デジタルデータ化はお金や手間がかかり、個人では簡単に進まないんですよ。

――里中先生は漫画界屈指の多作で知られますが、これまで描かれた原画の枚数はざっと見積もってどのくらいなのでしょうか。

里中:おそらく7万枚くらいはあると思いますね。なんであんなに描いたのか、自分でも驚くことがありますが、あるおじさん編集者から「女はちょっとしか仕事ができないんだろ」と言われて悔しく思ったのがきっかけかも。全世代に読んでもらいたいという思いもあり、世代ごとの雑誌に描くようになりました。頼まれたら断れない性格のせいかも知れません。最盛期は並行して連載を8本くらい抱え、少女誌はもちろん、青年誌も少年誌でも描いていました。描きすぎて同業者から心配されたほどで、時期によっては石ノ森章太郎先生よりも量を描いたかもしれません。そのせいで、何度か病気も経験してしまいましたが。

――まさに、魂を削りながら漫画を描かれたわけですよね。里中先生が原画の保存に情熱を燃やす理由もよくわかります。

里中:私の場合、出版社に精魂込めて描いた原画をなくされることがたびたびあり、大切に扱うようになりました。私は親から漫画家になることを反対されて、親に漫画を捨てられる経験も味わいましたが、それでも心を動かされた漫画は、親と攻防戦を繰り返しながら残してきました。

――だからこそ、子どもの頃に読んだ漫画に特別な思い入れがあるわけですね。

里中:私が夢中で読んだ作品の中には、今ではほとんど知られていない作品も多いんですよ。こうした今ではあまり語られなくなった漫画の中にも、名作はいっぱいある。黎明期の漫画家も熱意をもって描いていたのに、このままでは人々の記憶から忘れ去られる可能性があり、とても惜しいのです。そうした作品を多くの人に届けるためにも、原画の保存と活用が進めばいいなと望んでいます。

原画を活用すれば日本の観光の目玉になる

――雑誌に載っただけで単行本化もされていない漫画の中にも、優れた作品はたくさんありますよね。

里中:世間に知られた作品だけでなく、あらゆる作品を残すことはその時代の文化を理解するうえで重要です。イタリアには、ルネサンスを産み出すうねりを感じさせる多くの芸術品が今も残されています。有名な作品だけでなく、無名の芸術家の作品も素晴らしいものがありますし、比較することでルネサンス期の芸術性の目覚めがいかに革新的だったのかが理解できるわけです。

――確かに、海外の美術館に行くとマイナーな作品もたくさん展示されていて、比較しながら鑑賞できるメリットがあります。

里中:建築物から彫刻、絵画に至るまで山ほど史料がありますし、お互いにどう影響を与え合ったのかを、実物を見ることで深く学べるのです。ルネサンスが世界の美術史において転換点だったことは、モノがあるからこそ饒舌に語れるわけで、なければ伝説になってしまうでしょう。今、それらの作品が観光資源になり、国がどれだけ潤っていることでしょうか。

――日本も同様に漫画の原画を残せば観光の目玉になり、イタリアやフランスなどに並ぶ観光立国も目指せるかもしれませんね。

里中:私は、漫画の原画は将来的には日本の財産になると思うのです。日本人の心を語るものとして、世界から評価されていくでしょう。私は若い人たちの漫画を読むと、わくわくするんですね。新しい表現がどんどん生まれてきて、昔ならマイナーと言われていた表現をも受け入れる読者層の広がりが実感できて、素晴らしいです。一方で、漫画が世間の評価を得るに至るまで、どれだけ迫害されていたのかは語り継ぐべきだし、その時代に描かれた現物を残して後世に伝えるべきでしょう。今の漫画を盛り上げることも大切ですが、漫画のルネサンス期といえる時代の作品も残していかないと、日本は文化国家とはいえないのではないでしょうか。

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