イタリアに行くと「日本は超貧乏国」と痛感… 豊かになるために転換するしかない“政策”は

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円安に誘導されて日本人は先進国随一の貧乏国に

 日本の食料自給率は、1960年代には70%を超えていたが、日本は食糧安全保障を放棄して、輸入に頼る道を選んだ。それなのに、輸出企業を助けるために異次元緩和を続けて円安を維持したのだから、食糧が高騰するのは当然である。それでも、せめて賃金が上昇すればいいが、ぬるま湯政策で企業の技術革新への意欲も減退し、賃金は上がらない。

 その結果、日本人がいま置かれている状況がいかにひどいか、この夏、イタリアに行ってよくわかった。地下鉄の初乗りが320円、自動販売機の缶紅茶は320円、タクシーで2キロ程度移動して1,900円、グラニータ(カップに入った氷菓)を立ち飲みして650円、ガソリンが1リットル315円……。

 また、比較的大衆的な店でパスタを食べても、1皿2,500円はくだらないし、ホテルの宿泊費は数年前に1泊2万円程度だったところが3万7,000円。いわゆる高級ブランド品などは、21世紀初頭の3倍、4倍になっている。

 じつは、イタリアも賃金はあまり上がっていないのだが、通貨は堅実なので、すべてが割高になるような事態にはいたっていない。ましてや、イタリアを訪れる日本以外の外国人観光客にとっては、賃金の上昇分で価格高騰のある程度は補えてしまうのではないだろうか。

 そう考えて、日本人だけが貧しくなっている現状に気づかされるのである。最低賃金を引き上げたところで、問題はなにも解決しない。ガソリンや電気料金、ガス料金への補助金支給を延長しても、ツケが後世に回されるだけだ。そうではなく、アベノミクスと異次元緩和の非を認め、ゼロ金利政策を抜本的に転換するしかないのではないか。

 企業を助けてぬるま湯につけ、株価だけ上げて国民を貧しくした。そんな政策を改めることからしか、はじまらないのではないか。企業の業績が一時的に下がってもいい。日本企業はこれまで、どんなに円高になってもそのたびに技術革新を重ねて、乗り切ってきたではないか。

 そんな努力の機会を奪う政策が日本を、そして日本国民をどんどん貧しくしている。岸田改造内閣が真っ先に取り組むべきは、そこだと思うのだが。

香原斗志(かはら・とし)
音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。

デイリー新潮編集部

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