交際ゼロ日婚、性的関係を拒む妻に「俺を騙したのか」 不倫夫が抱いてしまう哀しき愛憎の根本原因
性的なことには嫌悪感しかない
ところがふたりの結婚生活のもっと「ヘンなところ」は、性的関係がないことだ。彼がなかなかその点を話さなかったので、いろいろ聞いてみて、ようやく判明した。
「結婚してすぐ、僕としてはごく普通に彼女と同じベッドに入ろうとしたんです。そうしたらごめん、今日は疲れてるからと言われて。僕の部屋となった場所で寝ました。でもいつまでたっても彼女はしようとしない。どういうことなのと何度も聞いたら、性的なことには嫌悪感しかないと。話せるだけ話してみると言ってくれたんですが、そのときの苦痛に満ちた表情が忘れられないんです」
彼女は幼いころから性被害にあっていたようだ。相手はおそらく実父。柊子さんは妹に被害が及ぶのを恐れて、誰にも言えなかった。誰かに助けを求めるほど大人にもなっていなかったのだ。
「彼女は感情を排して事実を話すと言ってくれたけど、途中で詰まってしまった。もういい、それ以上話さなくていい。もしいつか話したほうが気が楽になるのなら聞く。僕がそう言って制すると、彼女は『まだパンドラの筺を開けるときではないのかも』と。つらそうでした。職場でのあの笑顔とはまったく違う彼女を見て、僕自身も気持ちが動転してしまいました。彼女が恋愛を排して結婚しようと思った理由は、そこにあったんでしょうね」
彼の家族関係について、妻に詳細は話していない。話してどうなるのかと彼はいつも思っていた。だからこそ、柊子さんが話せないことをあえて聞き出そうとはしなかった。
「柊子がごめんねと言ったんです。彼女が悪いわけではない。抱きしめようとしたら彼女が体を引きました。そういえば僕ら、そういう身体的な接触もなかったんです。でも柊子が体を寄せてきたので、抱きしめて背中をポンポンと叩いたら、号泣していました。泣きながら眠った妻の顔を見て、せつなくてやるせなくて……」
「オレを騙して結婚した」
時間がたつにつれ、性的なこと以外はうまく歯車がかみ合うようになっていった。ふたりで出かけたり、友人夫婦と食事をしたりと、今まで亮輔さんが味わったことのない楽しみもあった。
「でもそのうち、やはり物足りなくなっていった。柊子を大事にしたいと思っているのに、心のどこかでオレを騙して結婚したという憎しみがわいてきてしまって。どうして僕は女性を愛すると、それと同じだけの憎悪もわいてくるのか……。原因は母にあるとわかっていたし、それを越えなければいけないのも承知していたんです、当然。なのに克服できない。このままだと柊子を傷つけそうで怖かった」
彼は彼の苦しみの中でのたうち回っていたのだ。肌のぬくもりがあれば少しは慰められたかもしれないが、妻に対してそれを要求はできない。人肌でしか解決できない痛みもあるのにと彼は思っていた。
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