SNS上では「静かな恐慌」という言葉が飛び交い…好調な米国経済を「張り子の虎」と呼ばざるを得ない理由
金利上昇、学生ローン、就職難、原油価格高騰
消費者が債務を増やしながら支出を続ける状況にも、逆風が吹いている。
ニューヨーク連銀が9月11日に発表した8月の消費者調査によれば、昨年よりクレジットカードの利用やローンを組むのが「難しくなった」との回答は59.8%で、調査が始まった2013年6月以降で最高の数字となった。金利の上昇や銀行の慎重姿勢が災いしている。
学生ローンの返済再開 も個人消費にとって大きな痛手だ。返済再開により連邦政府の歳入が大幅に増加し、8月の財政収支は同月としては異例の黒字(892億ドル)になったほどだ(9月14日付ブルームバーグ)。
一方、人手不足のはずなのに、今年の大学新卒者は昨年と異なり深刻な就職難に直面しているという報道もあり、個人消費を牽引する若年層はダブルパンチに見舞われている状態だ。
「弱り目に祟り目」ではないが、原油価格の上昇も頭の痛い問題だ。
レギュラーガソリンの全米平均価格(9月上旬)は1ガロン(約3.8リットル)当たり3.8ドル強と、年初より約2割上昇している。
バイデン政権はガソリン価格抑制に向けて動き始めているが、戦略国家備蓄(SPR)を既に大量に放出しており、決め手となる対策が見つからないのが実情だ。
エネルギーコストの上昇が消費者の購買力を奪い、1970年代半ばと1980年代前半、1990年代にはリセッションにつながったことから、市場関係者の間で警戒感が広がっている (9月19日付ブルームバーグ)。
今年も年末商戦の時期が近付いているが、実質売上高の伸び率はリーマンショック以来最低になるとの見方が出ている。個人消費も「遅くとも来年初めまでにマイナスに転じる」との予測が有力になっている(9月13日付日本経済新聞)。
労働組合によるストライキが多発
米国経済を押し下げる新たな要因も浮上している。
全米自動車労組(UAW)は9月15日、米自動車大手との労使交渉の決裂を受けてストライキに入った。このように、米国では労働組合によるストライキが多発している。米労働省のデータによれば、今年8月の労働損失日数(労働者が仕事に携わらなかった延べ日数)は410万7900日(暫定値)と23年ぶりの高水準となった。
労働組合の影響力は低下傾向にあったが、息を吹き返している背景には世論の変化がある。米国の世論調査・コンサル企業ギャラップの調査によれば、2023年の調査で「労働組合に同意する」と答えた米国民は67%と、リーマンショック直後の2009年の48%から大きく上昇している。
「利益が労働者に公平に分配されていない」という積年の恨みを晴らすかのように、労働組合が要求している賃上げ率が急激に上昇し、市場では賃金インフレを警戒する意識が強まっている(9月19日付日本経済新聞)。
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