「多様性」が招いた社会混乱… 人権大国フランスの暴動から日本が学ぶべきこととは?

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社会を破壊する「超個人主義」

 近隣諸国の人々が抱くフランス人に対するイメージというのは、「常に抗議と不満を抱えている」だ。その理由として、多くの専門家は「フランス革命の精神」とひもづけるが、当時の闘争心がいまだ脈々と受け継がれているとは思えない。

 ソルボンヌ大学のピエール=アンリ・タボワヨ政治哲学教授(58歳)は、私にこう語った。

「フランスには、社会を破壊する三つの要素があります。一つ目は社会を無視した麻薬取引、二つ目は自由と民主主義を利用するイスラム過激主義、三つ目は自由を野放しにした超個人主義です」

 フランスの民主主義は、国全体のためでなく、個人の権利のためとの考えにすり替わってしまった。社会の均衡よりも、個人の権利を重要視する。これが超個人主義に靡(なび)くフランスの現状だという。コロナ禍の影響もあったが、黄色いベスト運動や年金改革に抗議するストで街やキャンパスは荒れ、この6年間で授業を完遂できた学期がないとタボワヨ教授は不満を口にした。そして、母国の弱点について、こうも嘆いた。

「独自のアイデアを好むインテリ国家と称されてきたフランスは、極端な発想に魅了されてしまうところがある。それを極左的な教育を受けてきた多くのジャーナリストが率先して報じ、他の声を切り捨てる傾向があることも否定できない」

「この国はもっと悪くなる」

 伝統的にフランスは、左派寄りの風潮があり、移民や難民への寛容、社会保障制度の充実などを徹底してきた。しかし昨今、この国から恩恵を受けた移民さえもが、その左派的な社会に居心地の悪さを感じるようになっている。

 パリ東郊外クリシー・ス・ボワのシテに長年住んでいる、ポルトガル人のジョゼ・マルケス(68歳)は、「ミッテランから続く左派政権が移民を放置しすぎた結果だ。昔(70、80年代)は、みんな仲が良かったのに」と落胆。「この国はもっと悪くなる。私は、母国に戻ることを決めた」と憂い顔を見せた。

 このシテでは、2005年に大規模な暴動が発生し、私は、その現場を取材していた。当時の若者たちはまだ、大金を稼ぐ「ラッパー」や「サッカー選手」を夢見ていた。しかし今では、夢を抱くことさえも放棄している。

 フランス移民統合局(OFII)のディディエ・レシ局長は、仏週刊誌「レクスプレス」の取材で、若者たちについて、こう述べている。

「彼らには『未来がない』。唯一の願望は、モノを手に入れること。ブランドの靴、最新の携帯電話などだ。(中略)他の人々に共通の財産の利益が与えられないよう、集まって(学校、庁舎、警察署などを)破壊する」

 移民、麻薬、暴動……。フランス社会は今、混乱状態に陥っている。国内治安総局は、2012年以降、テロ事件による死者は合計271人、負傷者は約1200人と発表している。イスラム過激派によるテロリズムは、一旦、静寂を保っているが、その波がまたいつ来るかは分からない。次から次へと押し寄せる問題の根源は、何なのか。

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