「多様性」が招いた社会混乱… 人権大国フランスの暴動から日本が学ぶべきこととは?
警察官が「ストライキ」
そこでは、暴動が激化していた7月2日、22歳のアラブ系男性が警察官の発砲で頭部に重傷を負った。この出来事に関与した警察官が逮捕されたことを受け、正当防衛を訴える国家警察の警官800人がその後、約2週間の「休業」を決行した。
ただ、警察にはストライキの権利がない。そこで彼らは、「病気休業」の名の下、治安警備を放棄した。町中には、不気味なほど警官の姿がない。とても奇妙な光景だった。報道では、窃盗事件が急増しているとのことだった。
8月7日朝、マルセイユ市内でバスに乗り、フランス国内最貧地区(国立統計経済研究所調べ)として知られる3区を散策した。朝からひどかった。バスに乗ったアフリカ系移民女性が「息子を乗せ忘れちゃったわ。バスを止めてちょうだい!」と叫び、彼女と運転手の言い争いに発展した。
幼い息子をバス停に放置したまま、自分だけがバスに乗ること自体、常識的には考え難い。それに気付かない運転手に対し、乗客が怒り狂ってしまうことも常識ではありえない。フランスでは、「常識」の概念が多様すぎて、混乱が生じているようにも感じる。
3区に白人の姿はほとんどない。アフリカ系とアラブ系の移民か、その2世や3世が暮らしている。フランス語が聞こえてくるのはまれだ。空状態のゴミ箱の外に、大量のゴミが捨てられている。臀部が半分見えている薬物中毒の色男、真っ黒に汚れた顔で小銭をせがんでくる美少女。仮にもここは、フランス第二の都市の中心部だ。
「夜になると殺し合いが起きる」
それでもまだ日中はリスクが少ない。ただ近年、「夜になると殺し合いが起きる」と、3区にあるベル・ドゥ・メ通り沿いに理髪店「シェ・ハミッド」を構えるハミッド店長(50歳)は言った。
「借金地獄に落ちて、殺される事件が増えている。2010年くらいに景気が悪くなって、コロナでさらに貧困化した。結局、この周りの住民は仕事がなくて、ドラッグで生計を立てている。見ての通り、警官がどこにもいないだろ?」
マルセイユでは、麻薬取引による殺人事件も相次いでいる。AFP通信によると、今年1月から8月26日までに、合計38人の男女が麻薬絡みのトラブルで殺害されている。そのうちの2人は焼死、1人はリンチによる死亡だった。
旧港沿いにあるテラスでエスプレッソを飲みながら、スマホを眺めていると、突如、隣にいた女性旅行客が叫び声を上げて立ち上がった。椅子に置いたはずの彼女のバッグが消えていた……。
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