累計5000万部超の人気漫画家「赤松健参院議員」が語る、日本が国を挙げて“漫画の原画”を守るべき理由
原画はどのように保存されるべきか
――赤松さんは現在デジタルで作画をされていますが、『A・Iがとまらない!』や『ラブひな』などはアナログ全盛期の作画ですので、原画が大量にあると思います。原画の管理は、どのように行っていますか。
赤松:私の場合は、温度と空調が管理 できる貸し倉庫に入れてあります。自分の周りの漫画家をみると、出版社から原稿が返却されたときの封筒に入れたまま、押し入れにしまっていることがほとんど。これは意外と効果的なのです。下手にいじるとペーパーボンドで貼った写植がとれてしまうので、触らないのが鉄則ですから。ちなみに、ちばてつや先生の原画収蔵庫は防火室になっていて火事でも燃えない仕様だそうですが、そこまでやっている漫画家は皆無でしょうね。
――令和の時代に入り、一時代を築いた漫画家の訃報を耳にするようになりました。漫画家の死後、原画はどのように保存管理されるのが適正であると考えておられますか。
赤松:かつては漫画家という職業が、家族から理解を得られない事例もありました。そのため、漫画家が亡くなった後、遺族が原稿の価値をわからず取り扱いに困っているという話も聞きます。その場合は最悪、処分されることもあり得ます。だからこそ、私は適切な施設に預けるシステムがあるといいなと考えているのです。
――確かに、漫画の原稿を遺族が寄贈するにしても、地元の博物館なのか、美術館なのか、よくわからないケースがほとんどだと思います。収蔵できる施設の整備は急務ですね。
赤松:そして、ここが肝心なのですが、原画の展示会などが行われた際、遺族にも使用料などが還元される仕組みができるといいなと思っています。施設の中に、展示会の開催や原画の貸し出しだけでなく、グッズ化などの商品展開のプロデュースができる機能もあれば更に良い。これは存命の漫画家の原画に対しても同様であるべきで、預かった原画を少しでも利活用して利益を還元すれば、大きな援助になります。
――役所や公的団体が運営する施設にそこまでの機能を持たせるのはハードルが高そうですが、必要なことですね。
赤松:いずれにせよ、原稿の保存は急務だと思います。知り合いの先輩漫画家が亡くなった後に聞いた話だと、遺族が「まんだらけ」などに原画を売ってしまったそうです。他にも、漫画家が原稿の処分の仕方に困って役所に問い合わせたら、「原稿用紙は燃えるゴミです」と言われ、捨ててしまったという話も聞きます。とにかく僕の願いとしては、「原画を捨てないで下さい」、「売らないで下さい」、「売るにしてもバラバラにしないで下さい」ということです。今ならまだ間に合いますから、一時的に保管する施設を一刻も早く整備することが大切だと思います。
なぜ漫画界の対応が遅れたのか
――古書店の「まんだらけ」は1980年代から原画に価値を見出し、販売をしてきました。その一方で、漫画業界や出版業界が原画に注目するのは相当遅かった印象が拭えません。保存に向けた体制づくりが進まなかったのはなぜでしょうか。
赤松:最大の理由は、漫画の原画に対する意識が現在とは違っていたためです。手塚治虫先生などトキワ荘時代の漫画家が、原画の一部や断片をファンにプレゼントしていた話は有名ですよね。出版社側の原画の扱いも、決して丁寧とはいえなかった。漫画家側が、ちゃんと残そうと考え始めたのは最近になってからのことではないでしょうか。
――そういう意味では、まんだらけには批判もありますが、廃棄されていた可能性がある原画を救出してコレクターのもとに渡してきたことは意義があると思います。
赤松:捨てられる運命にあった原稿を「まんだらけ」が救ったことは事実ですし、私もその意義は認めています。ただ、原画が売却される様子を見るのは、やはり私も漫画家ですので心苦しいものがあります。ある著名な先生が病気を患い、年齢の問題もあってネットオークションで原画を売ろうとしていた現場に立ち会ったことがあります。ただ、ページごとにバラバラに出品されると散逸してしまいます。せめて、1話ごとにセットで売れるようにと、お手伝いをしたことがありました。やむを得ないことではありますが、漫画家としてはなるべく原画が散逸してほしくないというのが本音です。
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