Netflix「ONE PIECE」が世界的人気を獲得した本当の理由 マンガ実写化の「タブー」を打ち破った3つの“禁断の実”
原作との「距離感」
22年、「ONE PIECE」と同じ製作会社トゥモロー・スタジオが手がけた実写ドラマ「カウボーイビバップ」である。同作は世界的に人気のSFアクション・アニメを原作とし、鳴り物入りでNetflixで配信されたが、視聴数は伸びず、評価も厳しい結果に終わった。「既定路線」とされていた第2シーズンの制作発表も行われず、期待が高かった分、ファンや関係者の落胆も大きかった。
その点、「ONE PIECE」の成功は“いい意味”で予想を裏切ったわけだが、問題は同作とこれまでの実写化作品の明暗を分けたものは何か、だ。
最初に挙げられるのが、原作との距離感である。熱烈でコアなファンが多い人気作品ほど、ファンの期待を裏切らないよう「原作どおり」を前面に打ち出すのが一般的だ。とはいえ、マンガと映像といった表現媒体の違いから、そもそも原作の完全な再現など不可能といえる。
「カウボーイビバップ」の失敗は、キャラクターや舞台、そして全体のビジュアルイメージなどに関して、過度に映るほどアニメシリーズの「忠実な再現」を目指したことにあった。たとえばオープニング・タイトルは、カット割りが印象的なアニメ版そのままを踏襲し、音楽もアニメ版と同じ菅野よう子氏の「Tank!」を採用。宣伝においてもアニメのイメージが強調された。
その一方で、ストーリーは実写ドラマ独自の展開が盛り込まれ、キャラクターの「性格」もかなり異なったものに。ビジュアル面がアニメのイメージを強く意識させるだけに、むしろ「違い」が際立ち、これが視聴者の反発を買ったのではないか。
原作者の意向を反映
一方、「原作にソックリ」と評されることも多い実写版「ONE PIECE」だが、よく見ると登場人物とそれを演じる役者一人ひとりのキャラクターは必ずしも似ていない。原作ではアジア系を想起させる主人公の“ルフィ”を演じるのはメキシコ人のイニャキ・ゴドイであり、“ウソップ”の鼻の高さも抑えられている。それでも役者陣の演技や佇まいによって、原作のキャラクターや世界観が見事に再現されているのだ。
ストーリーも絶妙だ。100巻以上ある長大な原作を第1シーズンだけで説明し、8つのエピソードすべてにヤマ場を持ってくるのは至難の業だ。そこで展開や話の骨格は原作を活かしつつ、8話で一区切りをつけるため大胆に整理・再構築を行うことに成功。アレンジに違和感を持たせない出来栄えとなっている。
それを可能にした理由として、原作者の尾田氏がエグゼクティブ・プロデューサーとして同作に参加したことが大きいと考えられる。これまで実写化の映像権をハリウッドが獲得した際、原作のアレンジはほぼ自由で、さらに原作側はその内容に意見することができない契約が普通だった。
しかし今作では、尾田氏自身が「僕が納得できなかったら公開を延期すると(制作サイドが)約束してくれていた」と語っており、実際、尾田氏は幾つものリテイクを出したとされる。つまり今回は原作者の関与がかなり大きかったのだ。
それが認められたのも、近年の日本のマンガやアニメの世界的な人気と無縁ではない。従来の“ハリウッド・ルール”を変えてでも実写化権が欲しい海外勢に対し、日本側の交渉力が増しているのだ。
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