実は「売り込み上手」の上川陽子議員、外相起用の衝撃 岸田首相の念頭に“古賀誠問題”か

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岸田が仕掛けた「権力闘争」

 さて、上川の外相起用には、もう一つの重要な側面がある。それは同じ岸田派内で、岸田とそりが合わないとされる林芳正を外相ポストから外し、同じ岸田派から後任を据えたことだ。つまり、岸田が仕掛けた「権力闘争」の形ともなった。

 林と岸田は牽制し合う。因縁の背景には、かつて会長として宏池会(現岸田派)を率いた古賀誠元幹事長と、岸田の愛憎の歴史がある。

 古賀は岸田を若手時代から「宏池会のプリンス」として目をかけてきた。しかし岸田が派閥会長に就任して以降、次第に亀裂が生じる。総裁選で現職安倍への対抗馬として野田聖子が立候補を模索した際には、岸田が安倍支持を表明していたにもかかわらず、古賀は岸田派内の国会議員に対し、総裁選で野田の推薦人になるよう勧めたとされる。

 さらに古賀は、岸田の最大の政敵である菅義偉前首相と良好な関係を維持してきたとされる。菅が過去に、自民党で古賀の部下に当たる役職を務めたことなどが背景にある。関係者によると、菅が岸田を下した2020年の総裁選でも、古賀は菅支持に回ったと言われている。

 岸田と古賀の関係はこじれた。岸田と古賀は離れ、古賀は林寄りとなる。関係筋によると、古賀は周囲に「岸田は、昔はあのようではなかったのに」などと言い、岸田との距離感をにじませているという。林のバックには古賀がいる形なのだ。

 岸田による上川の抜擢により、林は派閥内で唯一のポスト岸田候補という地位を失った。林は今後、河野太郎、茂木敏充、石破茂、小泉進次郞、加藤勝信、西村康稔、世耕弘成らや、先に挙げた女性政治家たちと宰相の座を争うだけではない。派閥内での上川との競争が加わった。これは「二正面作戦」を迫られることを意味する。

「岸田派の存在感は上がった」

 一方、岸田にとっては、いつかは来る自身の首相退陣後、林、上川という2枚の後継カードを持つことになった。これは他派閥に対する優位性を高める。また、林と上川を競わせることにより、岸田は宏池会の「キングメーカー」として実権を握り続けることを可能にする。自民党筋の一人は、こう読み解く。

「これまで政策系の仕事が多かった林は今後、党で党務、派閥で閥務の力を磨くことになる。上川が重要閣僚の座を射止めたことで、岸田派には首相候補と目される人物が増えた。例えば人数が桁違いに多い清和会でも、首相候補と言えるのは2~3人程度。岸田派の存在感は上がった」

 今回の内閣改造後は、直後の世論調査で内閣支持率が横ばいにとどまったケースが散見され、政権浮揚への効果は限定的だったようだ。長期政権を実現する道筋は藪の中と言って良い。しかし岸田が今回、上川カードを切ったことは、局地的にしろ「人事好き岸田」の本領を垣間見せた。このわずかな糸口を、来秋の総裁選勝利に向けた光明につなげることができるのか。見ものである。(敬称略)

冬木陽一/政治アナリスト

デイリー新潮編集部

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