夏ドラ「ベスト3」 「VIVANT」最終回で憂助が電話でノコルに告げた言葉を読み解く
2位:テレビ朝日「ハヤブサ消防団」(木曜午後9時)
主人公のミステリー作家・三馬太郎役の中村倫也(36)や、映像ディレクターの立木彩役の川口春奈(28)ら出演陣の演技が出色だった。加えて、池井戸潤氏(60)の原作小説を大胆までに改変しながら、「郷土愛」や「家族愛」、「宗教心」などのテーマはそのままにした脚本も珠玉だった。
「聖母アビゲイル教団」の聖母だった故・山原展子(小林涼子・33)の幻が7話から最終回にかけて登場したが、この設定は原作にはない。なぜ、展子が現れるのか。その答えがこのドラマのメッセージにつながっていた。
8話。「隋明寺」住職・江西佑空(麿赤兒・80)は大勢の信徒たちを迎え入れる際、その集団の中に展子を見た。佑空と展子には血縁がないが、佑空にはかわいい義妹。佑空は展子を不幸から救ってやれなかったことを悔やみ続けており、その遺骨を故郷であるハヤブサ地区に戻してやりたかった。
佑空は信徒たちを迎え入れることによって、教団が持っていた遺骨を返してもらえることになっていた。だから信徒たちの来訪は展子の帰還に思えた。佑空の強い家族愛が幻を見せた。
「この世に迷いが存在する限りアビゲイルは滅ばない」
ハヤブサ消防団分団長の宮原郁夫(橋本じゅん・59)は、佑空が信徒を受け入れたことに対し、「あの、たわけ和尚が!」と憤った。この心情に共感できた人も多かったのではないか。
展子のささやかな願いはハヤブサ地区に戻り、佑空と一緒に暮らすことだった。普通に考えたら宮原の憤りは正しいが、家族愛は理屈で説明できない。
最終回。2代目聖母となるはずだった彩の前にも展子は現れた。聖母になる儀式に臨もうとしていた彩を、展子は引き留めた。
「カメラマンさんなんですね。よろしかったら、私も1枚撮っていただいてもいいですか。私がハヤブサにいた証を残したいんです。本当はずっとここにいたいけど、それは叶わないから。でも、きっと同じようにこの土地を愛する人たちが守ってくれますよね? 一つの家族のような、このハヤブサを」(展子)
穏やかな口調だったが、激烈なまでの郷土愛が感じられた。この言葉を聞いてしまったら、彩は教団と自分によるハヤブサ地区の占拠など出来ないだろう。
もちろん、この展子も幻。彩はハヤブサ地区が好きになっていた上、愛する太郎に2代目聖母にならぬよう説得されたから、展子が見えて、その言葉が聞こえた。彩自身が教団を離れようと思い始めていたから、展子は現れた。登場人物の心の中に展子がいるという設定であり、秀逸だった。
最終回の終盤で次代の「聖母アビゲイル教団」を担うと思しき男女3人が現れる。これは教団顧問弁護士・杉森登(浜田 信也・44)の「この世に迷いが存在する限りアビゲイルは滅ばない」という言葉通り。ドラマからの警鐘でもあるのだろう。
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