星野リゾートが「旧奈良監獄」を「ラグジュアリーホテル」に…近代建築ファンを魅了する“美しすぎる刑務所”の全貌
元刑務官が本気モードで「点検!」
話を体験プログラムに戻す。参加者はまず講堂に集合。この日の内容についての説明を受けると、そのまま居室が並ぶ収容棟へ向かった。目の前に現れたのは中央監視所を起点に5方向に伸びた収容棟。5つの収容棟が放射線状に整然と並んでおり、それぞれを天井から巧みに取り入れられた自然光が照らす。その美しくさえある光景を前に、参加者らは思わず写真を撮り始めた。少年刑務所時代には部外者が全く近寄れなかった場所だ。ここが見たくて応募した人も多い。
中央監視所の正面にある「第三寮」が、この日の体験プログラムの最初の舞台となる。ここでまず体験するのが「点検」だ。
かつての奈良少年刑務所では朝と夕に行われていたもので、合図のベルが鳴ると、受刑者はそれぞれの居室内で正座またはあぐらをかいて座り、背を伸ばし、手を腰の辺りに置いて待つ。刑務官は居室を端から順番に周って扉を開けていく。受刑者は自分の居室の扉が開けられると、称呼番号(しょうこばんごう)と「おはようございます」といった挨拶を大声で言う。そして再び扉は閉められる。
居室前に集まった参加者に対して、元刑務官は点検を待つ時の姿勢や手の位置について細かく説明した。実は姿勢や声の大小で受刑者の体調も確認していたという。
説明が終わると、参加者も実際に居室に入り点検を体験した。合図のベルが鳴り、元刑務官が「点検!」と大声で叫ぶ。迫力満点の声が収容棟に響き渡った。元刑務官は本気モードだ。リアル感が凄い。
刑務作業体験がもたらしていた効果
点検の次は居室から出て廊下に整列。受刑者が作業場へ移動する際の一連の動きを体験する。
元刑務官の指示に従い、2列に並んだ参加者たちが先頭から「イチ」「ニ」「サン」と順番に大きな声を出していく。7番目の参加者が「ナナ」と言うと、元刑務官はすかさず「シチ!」とより大きな声で訂正を入れた。その迫力たるや……。この反応の速さと声の大きさと張り方、元刑務官はかつての職場に来て昔を思い出したのかもしれない。
参加者はそのまま作業場である前庭へ移動。ここで草刈り作業を行った。少年刑務所だった頃は前庭の草刈りは受刑者が行なっていた。「当時はこんなに草が生えていたことはありません。本当にきれいなものでした」と元刑務官は少し寂しそうに語った。
この日、草刈りに当てられた時間は1時間半。参加者たちは黙々と草を刈っていく。結果として、刑務作業を体験しながら重要文化財の美観維持も同時に行っていた。
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