星野リゾートが「旧奈良監獄」を「ラグジュアリーホテル」に…近代建築ファンを魅了する“美しすぎる刑務所”の全貌
星野リゾートは9月14日、国の重要文化財「旧奈良監獄」をホテルに改装し、2026年春に開業予定と発表した。明治時代に建てられた監獄が、同社の高級ブランド「星のや」を冠したホテルに生まれ変わる――。少々、奇妙な衣替えのように思えるが、実はこの施設、近代建築ファンの間では「美しすぎる刑務所」として知られていた。その圧倒的な存在感を豊富な写真と共に改めてご紹介したい。
(以下、2022年11月6日にデイリー新潮で配信された、ライター・華川富士也氏の記事「美しすぎる刑務所『旧奈良監獄』 近代建築ファン憧れの地で“リアル”な刑務作業体験」を再掲する。日付・年齢、肩書は当時のまま)
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奈良市にある国の重要文化財、旧奈良監獄で「刑務作業体験プログラム」が行われている。10月に開催された際には、予約受付を開始するやあっという間に満員・受付終了になるなど人気だ。旧奈良監獄は2017年まで奈良少年刑務所として使用されていた施設。参加者は実際に使われていた居室で受刑者と同じ体験をし、元刑務官の指導のもと刑務作業の一部を体験する。わざわざ辛そうな思いをしに来る参加者はどんな人たちなのか? 一方、旧奈良監獄といえば、「明治の五大監獄」で唯一かつての姿を残す貴重な建物。近代建築ファンにとって憧れの場所だ。そこ何が行われていたのか? 潜入取材した。【華川富士也/ライター】
ジャズピアニスト・山下洋輔の祖父が設計
10月中旬の日曜日。旧奈良監獄の正門前には、刑務作業体験プログラムに参加する人たちの行列ができていた。その数、主催者の予想を上回る40人。このプログラムを考案したNPO法人J-heritageの前畑洋平氏によれば「宣伝や告知をしてないのに、あっという間に40人に達したので、慌てて締め切りました。本当はもっと少ない人数を想定していたんです」という。
旧奈良監獄は、明治時代に造られた「五大監獄」のひとつ。五大監獄は全て薩摩藩出身の建築家・山下啓次郎が設計していた。山下が手がけた監獄はいずれも厳かさと美しさを兼ね備えており、このうち長崎、鹿児島、金沢はすでに解体されているが、デザインが美しい正門は残されている(金沢のみ愛知県犬山市の明治村へ移築)。また千葉は正門と事務棟のみが現存。完全な形で明治時代の姿を残すのは奈良のみとなっていた。こうした経緯から旧奈良監獄は近代建築ファンにとって、なんとしてでも保存すべき存在であり、いつか全貌を見てみたい憧れの場所になっていた。
03年に法務省が解体を示唆すると、保存運動が湧き起こり、14年には山下啓次郎の孫、ジャズピアニストの山下洋輔を会長とする「奈良少年刑務所を宝に思う会」が発足した。やがて保存運動が実を結び、17年に国の重要文化財に指定される。旧奈良監獄は無事にその姿を残しながら、民間の力を借りてホテルなどとして活用されることになった。2024年には星野リゾートが手がけるラグジュアリーホテルとして開業する予定だ。
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