G20首脳宣言でウクライナにとって最大の誤算は? ゼレンスキー大統領の引くに引けない苦しい事情

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ウクライナ支援国の間でも悲観的な見方が

 ウクライナ政府は反転攻勢の成果を強調しているが、はたしてそうだろうか。

 欧州で最もウクライナ支援を明確にしている英国でも、「反転攻勢は失敗しつつある」との見方が増えている。

 英国立防衛安全保障研究所は9月4日に発表した報告書で、「ウクライナ軍は装備に大きな損失を被っている。欧米諸国が提供する訓練も彼らの戦闘に適していない。反転攻勢を急いだせいで持続不可能なレベルに達している」と悲観的な見方を示した。

 英BBCも8月30日、ウクライナ東部前線の状況について「米当局は『ウクライナの戦死者が大幅に増加している』と推定している」と報じた。

 兵役を逃れて多くのロシア人が国外に脱出する現象を西側メディアがたびたび報じているが、ウクライナでも同様の事態が発生している。

 9月1日付のAFPは「『自分の居場所ではない』 兵役逃れ出国するウクライナ男性たち」と題する記事を配信した。徴兵逃れに関する組織的な汚職も蔓延しており、ウクライナ検察は8月下旬、200以上の徴兵事務所を一斉捜索した。

 軍で相次ぐ汚職事件の監督責任を問われ、戦時中にレズニコフ国防相が解任されるという異常事態も発生しており、ウクライナ軍の士気が下がっているのは間違いないだろう。

 一方、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の政権基盤は揺らいでいないようだ。

戦時経済体制を確立しつつあるロシア

 9月11日に実施されたウクライナ占領地4カ所を含む統一地方選挙で与党・統一ロシアが圧勝した。投票不正疑惑が指摘されているものの、来年の大統領選挙でプーチン大統領が再選されることが確実な情勢だ。

 ロシアが西側諸国の制裁を回避する形で兵器の生産を拡大していることも明らかになっている。9月13日付の米紙「ニューヨークタイムズ」は、「ロシアの砲弾の年間生産能力は欧米の7倍に匹敵する200万発に上り、戦車の生産能力も侵攻前の2倍に達しており、冬に向けてウクライナへの攻撃が激化することが懸念される」と報じた。

 西側の軍事支援頼みが続くウクライナに対し、戦時経済体制を確立しつつあるロシア。

 戦争が長期化すればするほどウクライナは国力を毀損し、国の統一すら危うくなるのではないかとの不安が頭をよぎる。G20宣言が求める早期停戦は、ウクライナの将来にとっても必要なことなのだ。

 西側諸国もこれまでの方針を転換し、ウクライナ政府にロシアとの停戦交渉の再開を強く求めるべきではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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