「実はスーパーの食材で誰でも作れる」「野菜はタネもヘタも使う」 精進料理のレシピを禅寺の高僧が伝授!

ドクター新潮 ライフ

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みそ汁の三段活用

 夏を意識して選んでいただいた柿沼住職の献立だが、全体的にあっさりとして後を引かない。このすっきり感が精進料理の特色なのだそうだ。

 食べるというのは、食べ物の命をいただき、料理を作ってくれた方に感謝することだから、精進料理は徹底して無駄を出さない。住職はこんな例えを語った。

「ひたし汁はたっぷりかけていますから、食べたあと器の底に残ります。これでまた何かを作ります。汁は調味料でできていますから、新しい調味料にするのがいいですね。この汁を伸ばして麺つゆにするとか、そういう使い方をするのが精進料理なのです。例えばみそ汁が残ったら、もしシチューの素があるならホワイトシチューを作り、さらに残れば、野菜とカレーパウダーを入れて精進カレーを作ります。それをそばつゆで伸ばしたらカレーうどんになります。これを私はみそ汁の三段活用と呼んでいるのですが、とにかく精進料理には無駄になるものがないんですね」

なぜ水上は健康を取り戻せた?

 今回は精進料理をいただくことに徹したが、個人的には酒のつまみにすればさらに舌を感動させてくれるように思う。それにしても、こんなおいしい料理で、なぜ水上が健康を取り戻したのだろう。水上は〈人間生活に運動と食事が影響するのなら、北御牧での新生活は斜面を上り下りせねばならないので〉と運動の効果に触れつつ、やはりこの本を書いたのは、食べ物の影響が大きかったことを伝えたかったように思う。水上が「食」で健康を取り戻した背景を、あらためて柿沼住職に語っていただいた。

「水上さんが心筋梗塞を患ったのは、動脈硬化でコレステロールが血管にたまったからでしょう。健康を取り戻したのは、精進料理で血液がサラサラになったからと考えられます。精進料理では、たくあんやみそといった発酵食品をよく使います。特にみそは汁物だけでなく料理にも使いますので、腸内環境もよくなったはずで、それが心臓の機能も回復させてくれたのかもしれません。それだけでなく、精のつくものを食べたりしているところからは、必死に生きようとしている印象が伝わってきます」

 腸内環境を変えれば心臓の機能が回復できるのかどうかは定かではないが、腸内フローラと動脈硬化の関連を指摘する論文や、脳血管障害(脳梗塞やくも膜下出血など)の患者が菜食生活を半年以上続けるとコレステロールやHbA1c(糖尿病のリスクを判断する数値)が改善しただけでなく、体重も減少したという論文もあって、水上が精進料理で健康になったのは当然かもしれない。

 自分の体に合う食材を、自分の口で食べ続けた水上は、まさに医食同源を実践したのである。死線をさまよった彼は、それから15年も生きた。

奥野修司(おくのしゅうじ)
ノンフィクション作家。1948年生まれ。『ナツコ 沖縄密貿易の女王』で講談社ノンフィクション賞と大宅ノンフィクション賞を受賞。『ねじれた絆』『皇太子誕生』『心にナイフをしのばせて』『魂でもいいから、そばにいて 3・11後の霊体験を聞く』など著作多数。

週刊新潮 2023年9月14日号掲載

特別読物「禅寺の高僧が調理方法伝授 心臓3分の2が壊死でも 作家水上勉を永らえさせた『精進料理』」より

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