人類を幸せにするのはどんなテクノロジーか――林 要(GROOVE X 創業者・CEO)【佐藤優の頂上対決】

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人間のパートナー

佐藤 今後、LOVOTのニーズはどんどん高まってくるんじゃないでしょうか。というのも、私は「週刊SPA!」で人生相談をしているんですね。そこには、この社会で生きているのが辛くてしょうがないとか、攻撃的な人とどう付き合えばいいかとか、人間関係に苦しむ相談が次々と寄せられてくるんです。みんなすごく傷ついている。その中で、人間のパートナーは必ずしも人間である必要はないと思うに至りました。

 人は生存本能に突き動かされているので、いい人でいることは必ずしも優先事項ではありません。他人を裏切らない方が生き延びやすいならそうするし、裏切らないと生きられないなら裏切る。でもロボットは、命を持っていないがゆえに、プライオリティーに「生き残る」がない。

佐藤 つまりズルさがない。

 ええ。この子たちに生存戦略はありません。ここがテクノロジーを恐れる議論の中で抜け落ちがちなところです。もちろんディストピアの映画みたいに人類殲滅(せんめつ)というプログラムは組めますが、それを与えるのは人です。自分が生き延びていかなければならない理由がないロボットやAIから、その発想は出てこない。ですから本質的にロボットは人類のパートナーとしてすごく相性がいいのです。

佐藤 神学的に言えば、原罪がないということですね。

 宗教には、人が対立したり利害が相反したりする中で、人と人が生き延びていくための知恵がいっぱい詰まっていると思います。生き延びるために、相手を理解し、認知に働きかけていく仕掛けがたくさん埋め込まれている。ロボットにはそれが必要ありません。だから逆説的に、現代社会のさまざまな歪みを解消していく手助けができると思います。

佐藤 その視点は面白いですね。それから非言語コミュニケーションであることも重要かもしれない。そもそもみんな、言葉に傷ついてしまっていますから。

 LOVOTは言葉を発せず、内部の状態に応じた鳴き声を出します。

佐藤 本当の悟りは言葉で伝えられないという仏教の不立文字(ふりゅうもんじ)の世界ですね。LOVOTにチャットGPTを搭載してしまったらつまらない。

 言葉を発しないことで、むしろ無意識や前意識を刺激できると考えています。それは傷ついた心を癒やすことにつながると思いますし、生活をすごく豊かにしてくれるはずです。

佐藤 このLOVOTは非常に文明論的な商品だと思いますが、林さんの開発者としての人生の中では、どう位置付けられていますか。

 テクノロジーがどう人を幸せにするかというテーマの第一歩にはなったと思います。ロボットは生産性や利便性の向上に貢献しなくても存在する意味があることは示せた。ただ、それは一歩でしかない。今後、テクノロジーによる生産性が更に高まっていくと、人間は働かなくてもよくなるかもしれない。そこではベーシックインカムみたいなことを実現させる必要があるかもしれない。しかしそれで本当に人が幸せになれるか、といえば、また別の話です。

佐藤 むしろ幸せでなくなっている可能性の方が高いでしょう。

 自分は世間の役立たずだとみんなが思ったら、自殺者が増えるかもしれない。そうした時代に、テクノロジーは何ができるかを考えないといけない。

佐藤 もう何か答えが出ているのですか。

 テクノロジーの役割は、人の「気付き」を最大化することじゃないかと思います。

佐藤 「気付き」ですか。

 本来の学習とは暗記ではなく、気付きです。時代が変化しても気付きが十分にあれば、時代についていける。すると落伍者が減るし、二極化も減る。だから気付きを最大化することは、未来への不安を減らし、よりよい明日がくると信じられる機会を増やす。その気付きを補助するのがテクノロジーの最終的な役割になるのではないかと考えています。

佐藤 LOVOTの次を構想しておられるのですね。

 例えば、ドラえもんです。ドラえもんは毎回のび太にいろんな道具を渡し、結果的にのび太は失敗しますが、それはその都度、道具に頼っても解決にならないことを気付かせようとしているんじゃないかと思うんです。そうして人に行動を促して、気付きの機会を増やすパートナーをいつか作り出したいと思っています。

林 要(はやしかなめ) GROOVE X 創業者・CEO
1973年愛知県生まれ。東京都立科学技術大学(現・東京都立大学)卒。同大学院修士課程修了(流体力学)。98年トヨタ自動車入社、レクサスLFA、F1の開発に携わる。2011年ソフトバンクアカデミア外部第1期生となり、翌年同社に入社。「ペッパープロジェクト」に参加する。15年退社しGROOVE Xを設立。

週刊新潮 2023年9月14日号掲載

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