ゼレンスキー大統領は「F16」よりスウェーデン製「グリペン」を欲しがっている 無名の戦闘機を必要とする特殊事情とは

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ウクライナの現実

 空軍は通常、戦闘機、攻撃機、偵察機と、用途に応じて専門の機体を整備する。ところがスウェーデンは、もし東側諸国と戦闘状態になった場合、空軍が甚大な被害を受ける可能性が高い。攻撃機が壊滅状態となれば、いくら偵察機が生き残っていても反撃に転じることは難しい。

 そのためスウェーデン空軍は、軍用機に“専門性”は不要と判断した。グリペンは戦闘機に分類されているとはいえ、敵機の撃墜だけでなく、戦車を攻撃することも、敵陣地を偵察することも難なくこなす性能を誇っている。生き残ったグリペンは、ありとあらゆる用途にフル活用させるというわけだ。

「まさに多用途戦闘機で、その分、開発には苦労したそうです。また、性能面では本来なら重要であるはずの航続距離を捨てたことでも知られています。小型化と開発コストを抑えるために仕方がなかったわけですが、目の前のロシア軍に反撃するという国防戦略を反映したとも言えます。敵国に飛んで攻撃するのなら航続距離が必要ですが、スウェーデン空軍が想定したのは自国内の空戦だけです」(同・軍事ジャーナリスト)

 こうして見ると、スウェーデンが想定していた戦争は、今のウクライナ戦争と全く同じ状況であることに気づく。

「自国はロシア軍に破壊され、機体もパイロットも不足しています。グリペンは短時間の給油と武器補給が可能な設計です。もちろんNATO軍のミサイルを使用することも可能で、シェルターから高速道路を使って飛び立ち、ロシア軍を撃破したら帰還。大至急、補給を済ませると、すぐに再び離陸できます。ウクライナ空軍にとって最も役に立つ戦闘機なのです」(同・軍事ジャーナリスト)

F16よりグリペンという理由

 グリペンはロシアの軍用機を撃墜するために設計された。ロシアの大手航空機メーカーであるスホーイ社が生産する軍用機が仮想敵であるため、“スホーイ・キラー”という異名を持つ。

「F16は世界最高クラスの戦闘機ですが、アメリカらしく『絶対に安全な場所から出撃し、敵国を空から攻撃する』という設計思想になっています。ウクライナ空軍のパイロットがF16の操縦をマスターするのは大変だという議論は盛んですが、補給や整備の問題も重要です。今のウクライナに安全地帯などあるはずがなく、F16が運用できる空軍基地を構築するのは一苦労でしょう。一方のグリペンなら、最前線の野戦基地のような劣悪な場所でも運用が可能です」(同・軍事ジャーナリスト)

 だが、グリペンの性能が高ければ高いほど、そしてウクライナの戦場で活躍すると専門家が太鼓判を押せば押すほど、スウェーデンとしては慎重にならざるを得ないようだ。必要以上にロシアを刺激したくないという考えがあるのは言うまでもない。

デイリー新潮編集部

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