ゼレンスキー大統領は「F16」よりスウェーデン製「グリペン」を欲しがっている 無名の戦闘機を必要とする特殊事情とは

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スウェーデンの歴史

 もう一つは「ロシア軍がウクライナに侵攻した緒戦の時点で、戦闘機や戦闘ヘリなどの航空戦力がかなりの被害を受けた」という指摘だ。

「今のウクライナ軍にとって西側諸国から供与された戦車は虎の子の兵器ですが、ロシア軍にとって空軍は最も温存させたい戦力でしょう。もしウクライナの戦場で撃墜が相次いでしまうと、本国の領空を守る機体が少なくなってしまいます。そのためロシア空軍は、空中からミサイルを発射してウクライナの都市を破壊する作戦に専念しているようです。こうして両軍が対峙する最前線では、いずれも航空優勢が取れないという非常に珍しい状況に陥っています」(同・軍事ジャーナリスト)

 今月、オランダとデンマークは、ウクライナにアメリカ製のF16戦闘機を供与すると明らかにした。ウクライナにとっては待ちに待った航空戦力だが、本音を言えばF16よりグリペンのほうが必要なのだという。その理由を知るには、同機の生産国であるスウェーデンの歴史を紐解く必要がある。

「18世紀から19世紀にかけてロシア・スウェーデン戦争が勃発するなど、スウェーデンにとってロシアは古くからの“敵国”でした。しかし、1809年にフィンランド大公国が誕生したことで、スウェーデンがロシアと国境を接することはなくなります。その結果、19世紀になると、スウェーデンは“重武装中立”を国是としたのです」(同・軍事ジャーナリスト)

自国が蹂躙されたという想定

 スウェーデンは第一次・第二次世界大戦には参戦せず、中立の立場を維持した。その後、冷戦が始まると、スウェーデンは西側諸国との協調路線を選択する。

「中立の立場は維持するが、西側諸国とは友好関係を結ぶ。ソ連を筆頭とする東側諸国は仮想敵と見なす――これが冷戦期におけるスウェーデン外交の基本方針となりました。そのため国防計画も『ソ連に攻撃された際、どうやって反撃するか』を根本に据えて立案されました」(同・軍事ジャーナリスト)

 スウェーデンは中立が国是であり、軍事力を考えてもソ連に先制攻撃を仕掛けることは現実的には不可能だった。冷戦下で圧倒的な戦力を誇っていたワルシャワ条約機構軍がフィンランドを占領し、スウェーデンにも進軍、自国が多大な被害を受けることを前提として反撃の戦略が練られた。

「そうした戦略の象徴とも言えるのがグリペンです。グリペンは標準的な戦闘機に比べ小型で、離着陸に必要な距離はたったの800メートルです。ロシアの攻撃でスウェーデンの空軍基地が壊滅状態になるという想定で、グリペンは山腹に掘られたシェルターに隠す計画になっています。そのために小型である必要があるのです。滑走路も破壊されることを想定し、高速道路の直線区間で離着陸を行います。そのために800メートルと短い滑走距離になったのです」(同・軍事ジャーナリスト)

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