鈴木誠也、秋広優人を育てた二松学舎大附高の監督が語る「慶応高校野球」 「監督は自己嫌悪の連続。自主性を重んじるチームは羨ましい」
今年の夏の甲子園は、慶応ブームが沸き起こった大会として記憶されるだろう。8月23日の決勝では慶応が仙台育英を破って優勝。ブームは頂点に達した。特に慶応は「長髪」「文武両道」「エンジョイ・ベースボール」「自主性の尊重」など、他チームにはない強い個性を持ち、高校野球のあり方に一石を投じた。(全2回目の2回目)
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慶応の森林貴彦監督(50)は“改革”に意識的で、著書『Thinking Baseball――慶應義塾高校が目指す“野球を通じて引き出す価値”』(東洋館出版社)では「坊主頭の強制」「体罰」「勝利至上主義の弊害」など、伝統的な高校野球を強く批判している。
優勝した際のインタビューでも「高校野球の可能性、多様性が示せればいい。うちの優勝から何か新しいものが生まれてくれば」と、自校における“改革”が全国へ広がっていくことに期待を寄せた。
では、こうした“慶応ブーム”を他校の監督はどう受け止めたのか。二松学舎大学附属高校(東東京)は、春7回、夏5回の甲子園出場を誇る強豪校だ。プロに進んだOBも多く、MLBシカゴ・カブスの鈴木誠也(29)や巨人の大江竜聖(24)、秋広優人(20)などを輩出している。
市原勝人監督(58)に慶応優勝の受け止めを聞くと、「慶応だけでなく仙台育英も部員の自主性を重んじるなど“新しい高校野球”を実践している印象が強いですね」と言う。
「昔ながらの伝統校ではなく、新しいスタイルで注目された2校が決勝で対戦したということは、非常によかったのではないでしょうか。ですが、ここで大事なのは多様性です。新しいスタイルの高校だけでなく、昭和のような泥臭い野球をやる高校が勝つこともいいことでしょう。なぜかと言えば、『慶応や育英のようなスタイルは真似できないよ』という高校もあるからです」
実は改革派の二松学舎大附高
伝統を重んじるのは私立の強豪校だけではない。公立高校でも昭和の泥臭い野球を守っているところは珍しくない。
「そういう公立高校は長い歴史を持ち、地域の人々が『あの高校は私たちの誇り』と普段から熱烈に応援しているという特徴があります。それこそOBが結婚して子供を作り、その子供が野球部に入ることも珍しくありません。そんな高校は慶応の真似をする必要もないわけですが、現時点では慶応のスタイルに魅力を感じる小中学生のほうが多いでしょう」
市原監督に取材を依頼した理由の1つは、二松学舎大附高も“改革派”の印象があるからだ。監督の著書『個性を伸ばす技術』(竹書房)の目次には、次のような文言が並んでいる。
《選手をなるべくいじらない》、《千本ノックに意味はあるのか?》、《選手たちが聞く耳を持ってくれるまで待つ》、《全体練習は毎日4時間》──。文中には選手の自主性を求める記述もある。一部を引用させていただく。
《人の話を聞きつつ、自分の中でそれをちゃんと消化して「取り入れるものは取り入れる、捨てるものは捨てる」と取捨選択をしていくことが肝心》
《選手たちを型にはめるような指導はしない。何事も自然体でいることが大切だと思っている》
《鈴木誠也にしろ、大江竜聖にしろ、プロで活躍しているような選手は、そういった取捨選択がうまいのだろう。彼らは高校時代から「自分で考え、行動する」という術に長けていた》
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