巨人・秋広優人は二松学舎大附高時代、成長痛で苦しむ一方、体重はなかなか増えず…3年時に遂に覚醒した“幸運とも言うべき理由”

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中田翔の懐に飛び込む

 秋広のインタビューなどを読むと、「優しそうで温和そうな選手」という印象を持った方も多いのではないだろうか。市原監督も「ふわっとした性格ですよね」と頷く。

「それでも誤解を恐れずに言えば、ちゃっかりしたところもあるんです。“ふわーん”とした性格というばかりでなく、よく考えている。例えば、今年の春、中田翔選手と一緒に自主トレをしましたよね。一般的に中田選手は怖い先輩というイメージがあると思います。特に若手選手にとっては雲の上の存在でしょう。でも、秋広は中田選手の懐に飛び込んでいった。あれはチーム内の人間関係などを冷静に観察しているからで、秋広は高校時代からそういうことができる子でしたね」

 現時点の秋広の活躍について市原監督は、「上出来」と太鼓判を押す。

「秋広がプロの世界で頭角を現すことができたのは、まずは性格が素直だからでしょう。さらに、柔らかなバッティングが力を発揮しています。高校1年生の時は『柔らかいけれどパンチがない』という選手でしたが、今は『柔らかくてパンチがある』という選手になっているのですから面白いですね。ただし、今季最大の収穫は打撃成績ではないと思っています。高卒3年目の若手が一軍の試合にほぼ出場できたことが最大の収穫ではないでしょうか」

 市原監督は「多分、秋広は、精神的にも肉体的にもヘロヘロでしょう」と推測する。実際、7月中旬には打率が3割を切り、「遂に息切れか」と心配する声もあった。だが、秋広は踏ん張り、今も2割7分台を維持している。

「打率が落ちかけたにもかかわらず、しっかりと立て直せたのはいい経験になったと思います。でも、またちょっと下がっていますかね(笑)。とにかく一軍でプレーを続けているというのは、必ず来年に活きるでしょう。あとはファンの皆さんが期待している長打力、つまりはホームランの数だと思いますが、もちろん秋広もそうした期待が集まっているのは充分に分かっているはずです」

ホームランより出場が大事

 市原監督は「今季の秋広は塁に出ることを優先しているし、来季も同じ姿勢で臨んでほしい」と言う。ホームランのことは考えなくていいそうだ。

「試合に出続けるというのが秋広の初心でしょう。その初心を忘れてほしくないですね。来年以降も今のスタイルでぶれることなく、とにかく試合に出続ける。経験が積み重なればホームランの数は自動的に増えます。それを『ホームランを打たなければならない』と意識し過ぎると、駄目になってしまう。あれだけ競争の激しいチームですから、それこそ打率も無視していい。出場試合数だけを気にすれば充分ではないでしょうか」

 ホームランどころか「ヒットを打つ」という意識も不要だという。ヒットのことを考えないというのも大変そうだが、市原監督は「秋広ならできます」と言う。

「秋広は高校時代も自分のペースを変えませんでした。僕が見たところ、巨人でも自分のペースを守っています。ウチでホームランが出始めたのは3年生の最後の最後でした。それくらいの感覚でいいでしょう。それに体格も変わると思うんですよ。まだまだ発展途上です。大谷翔平さん(29)だって日ハムの新人時代は華奢でした。それが今では立派な体格でホームランを量産している。だからこそ、秋広の体が完成に近づいてきた時、試合に出ていないと困るわけです(笑)。高校はレギュラーの座が確保されていましたけど、プロは出場できるかどうかさえ分からない。体が完成するまで試合に出続けることができれば、おのずとホームランも増えていくと思いますね」

プロ野球選手は偉くない

 二松学舎大附高の野球部で練習に励む現役の部員にとって、秋広や鈴木誠也は憧れの目標だ。ところが、市原監督はあえて「プロ野球選手になるということは、万人が羨ましがることじゃないんだよ」と話すようにしているという。

「部員には『大人でも社長になりたくない人はいる』『出世を断る人もいる』と言っています。要するに“平凡の非凡”ということを分かってほしいんです。『お前たちのお父さんで、会社にお勤めの人もいるだろう。会社員で定年まで働いて、退職して家族から花をもらえたのなら、こんな幸せなことはないんだ』と話すこともあります。華やかなプロ野球選手が偉いのではなく、『お前たちのお父さんも偉いんだ』と伝えています。高校の3年間がプロ野球選手を目指すためだけに使われたとしたら、かえって心のバランスが崩れるでしょう。みんなプロの選手になれれば幸せでしょうが、そんなことは不可能です。それぞれの進路先で、部員の誰もが幸せな人生を過ごしているように、少しでも手助けができればと考えて監督をやっていますね」

後編【鈴木誠也、秋広優人を育てた二松学舎大附高の監督が語る「慶応高校野球」 「監督は自己嫌悪の連続。自主性を重んじるチームは羨ましい」】に続く

註:工藤公康氏、高卒3年目の巨人・秋広は「中心打者で打てるようなバッターになる」(BASEBALL KING ニッポン放送ショウアップナイター:9月3日)

デイリー新潮編集部

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