巨人・秋広優人は二松学舎大附高時代、成長痛で苦しむ一方、体重はなかなか増えず…3年時に遂に覚醒した“幸運とも言うべき理由”

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食事の苦労

 成長期の高校生はただでさえカロリーを必要とする。野球部員ともなるとなおさらだ。炭水化物を大量に摂らなければ練習についていけないし、タンパク質は疲労回復やケガの防止に重要だ。

 一説によると、高校の野球部員は1食あたり最低でもご飯は1合半、タンパク質は通常の2~3倍、ビタミンは3~5倍が必要だという。しかも、これほど食べても現状維持に過ぎない。体重を増やすためには、さらに量を摂る必要がある。

 体重が増え、体が大きくなると、投手はボールのスピードが速くなり、打者は飛距離が伸びる。市原監督の教え子には、3年生の春から夏という短い期間に8キロの増量に成功し、球速が10キロもアップした投手がいたという。

 そのため市原監督は秋広に「なるべくご飯を食べてもらおう」と考えていたが、なかなかうまくいかなかったという。

「プロになった秋広は食事が大切という意識を持っているはずですし、お手本になる先輩も身近にいるでしょう。ところが、高校生にはそこまでの意識はありませんから、なかなか食べません。僕は見ながら『もっと食べれば、体がこうなるのに、ああなるのに』と思うんですけど、なかなか伝わらなかったですね。昔は『ご飯はラーメン丼に3杯』とノルマを課していたこともありましたけど、こっそりトイレで吐く子がいることを知って止めました」

コロナ禍と甲子園

 せっかくの食事だから美味しく食べてもらいたい。だが、部員の自主性に任せると、今度は体重が増えなくなってしまう。「これなら丼3杯のノルマを復活させたほうがいいのか」と今でも悩むことが多いという。

「秋広は普通の選手より体が大きいわけですから、基礎代謝は多いでしょう。同じ量を食べて、同じ運動量なら、エネルギーの必要量は他の選手より数段上になるはずです。つまり、秋広は他の選手よりたくさん食べても、やっと現状維持なのです。もちろん一生懸命に食べていましたけど、なかなか体重は増えませんでした。結局、最終的には92キロだったはずです。『100キロを目指そう』と励ましていましたが、背が伸び続けていたのが大きかったですね。いずれにしても、よく頑張ったと思います」

 この時、秋広を追い上げる“後輩ピッチャー”がいた。2021年のドラフトでロッテに4位で指名される1学年下の秋山正雲(20)だ。1年生の夏からベンチ入りし、秋にはエース候補となった。なかなか“覚醒”しない秋広とは対照的なタイプだった。

 市原監督も「ピッチャーとしての能力だけを考えたら秋山を選ぶべきなのかもしれない」と揺れていた。

 ところが、コロナ禍が起き、状況が一変してしまう。2020年1月に国内で最初の感染例が確認されると、感染者は増加の一途を辿った。そのため3月のセンバツは中止。夏はセンバツに出場予定だった32校による交流戦が実施された。

「もちろん甲子園大会がなくなったのは残念でしたし、秋広も悔しがっていました。しかし、僕は『ならば3年生のチームにしよう』と決心することができました。甲子園に行くという目標から自由になり、3年生の進路に目を向ける余裕が生まれたのです」

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