【福富太郎さんの生き方】面接したホステス3万人、首相もお忍びで、最盛期には44店舗…銀座「ハリウッド」の経営者が語った“昭和のキャバレー文化”

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 最盛期には全国に44店舗。キャバレーチェーン「ハリウッド」はサラリーマンの憩いの場でした。その独特な風貌から「キャバレー太郎」と呼ばれた時代の風雲児、福富太郎さん(1931~2018)が今回の主人公です。朝日新聞編集委員・小泉信一さんが、様々なジャンルで活躍した人たちの人生の幕引きを前に抱いた諦念、無常観を探る連載「メメント・モリな人たち」。やはりというか、もちろんというか、小泉さんは取材を通じて福富さんから色々なお話を伺っていました。さて、どんな秘話が出てくるでしょうか……。

人呼んで「キャバレー太郎」

 広々としたホールにミラーボールが輝き、専属バンドによる生演奏が響く。飲み屋や風俗店が肩を寄せ合うように並ぶ東京・北千住(足立区)。

 街のランドマークでもあった老舗キャバレー「北千住ハリウッド」で“キャバレー葬”が営まれたのは2018年7月だった。タレントや出版・マスコミ関係者らが参列し、冥福を祈ったのは、この年の5月29日に86歳で亡くなったハリウッドグループ総帥、福富太郎(本名・中村勇志智)である。

 人呼んで「キャバレー太郎」。

 東京五輪が開催された1964(昭和39)年、銀座8丁目の一等地に5階建てフロア面積1000 坪の巨大キャバレー「銀座ハリウッド」をオープン。開店の挨拶状やチラシに、こんなキャッチフレーズを使った。

《驚く勿(なか)れ ホステス3千人! 驚く勿れ 世界の三バカ! 万里の長城 戦艦大和 銀座ハリウッド》

 もちろん、いわゆる「お触り」などのいかがわしいサービスはない。大人のため紳士のための健全な社交場だ。それでもオープンしたころは警察がうるさく、ちょっとお色気的なことをすると立ち入り検査を受けた。

「安心明朗会計」をうたい、銀座では初の現金払い制にした。ハイクラスな旦那衆からは「銀座の高級イメージとは違う」と批判の声も起きた。それでもやはり、サラリーマンにとっては明朗会計が何よりうれしい。

「銀座のクラブは客が一歩店に入れば、まず4万円はとられる。ところがうちは銀座で唯一の大衆キャバレーだから、1万5000円もあれば足りる。これまで高いクラブを利用していたビジネスマンたちが、ほかへ行かずにうちへ来るってわけです」

 と福富はうれしそうに話していた。

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