「時給にしたら500円」「骨折してもそのまま運転」 低賃金、過労死ワーストのトラックドライバー、現場からの悲痛な叫び「僕たちの存在を感じてほしい」

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指を切断しても…

 日本の宅配サービスは、世界でも類を見ないほどに品質が高い。

 海外では時間帯指定はおろか、再配達を依頼しても予定通り来ないことも日常茶飯事。段ボールの八つ角がとがったまま、どこにも傷がつかないで届くこともまれだ。

「日本では段ボールは梱包材ではなく商品という考えが浸透していますから、ちょっとでも傷がついた場合、すぐにクレームが来ます」(前出30代、大手宅配配達員)

 以前関西地方で、車のドアに手の指を挟み、切断したにもかかわらず、そのまま仕事を続けた配達員が話題になった。

 これに対し、郵便・宅配の配達員たちからは、

「気持ちが痛いほど分かる。配送中に足をくじいた時、車に積んでいたガムテープで固定してそのまま走り続けた」(50代、大手宅配配達員)

「自分も郵便配達員をしていた頃、バイクで転倒してあばらを折りましたが、そのまま運転しました」(50代、個人事業主)

 という“共感”の声が取材では相次いだ。

「運ばなくてはならない荷物の量が決まっている。それを守れないと契約を切られたり評価が下がったりしてしまうので、ドライバーは配達中、なかば『トランス状態』。自分のことに構ってる余裕がなくなるんです」(40代、個人事業主)

 高品質なサービスは、現場の理不尽や犠牲の上に成り立っているのだ。

「どうか僕たちの存在を感じてほしい」

 一方、2024年問題の真の当事者である企業間輸送のドライバーたちにおいては、ほとんどエンドユーザーとの接点がなく、「見えない存在」として日本の社会インフラを下支えしてきた。この「見えない化」は、ドライバーたちの労働環境を「ブラックボックス化」させてきた。ここまで環境が悪化したのは、まさしく「見えない化」が一因になっている。

 宅配で使用される前出の「送料無料」という言葉は、「物流は『なくてもいい存在』」という潜在的意識を宅配の現場だけでなく企業間輸送の現場にも植え付けた。

 2024年問題は、「荷物が運べなくなる問題」「荷物が届かなくなる問題」ではなく、「荷主や消費者の無関心や無理解によって物流が崩壊する問題」なのである。

 彼らの労働環境を改善し、荷物をこれまで通り運べるようにするには、ドライバーの労働時間の短縮よりもまず、荷主やわれわれ消費者の「理解」が必要だということを忘れてはならない。

 最後に、現場の声をもうひとつ――。

「自分はこれからもトラックに乗り続けたい。そのためにはまず、物流が今どういう状況にあるのかを、世間に正しく理解してもらう必要があると思います。僕ら企業間輸送のドライバーは消費者と直接触れ合う機会はありませんが、顔をあげて目に入るほとんどすべてのものが一度はトラックに載っています。その当たり前を享受することでどうか僕たちの存在を感じてほしい」(30代、長距離、雑貨)

橋本愛喜(はしもとあいき)
元トラックドライバー、ライター。大阪府出身。大学卒業間際、実家の金型研磨工場を引き継ぎ、大型自動車一種免許取得後、トラックで200社以上の製造業の現場へ。後、ニューヨークに拠点を移し、報道の現場に身を置く。現在は、ブルーカラーの人権、労働に関する問題について各媒体に執筆中。著書に『トラックドライバーにも言わせて』『やさぐれトラックドライバーの一本道迷路』がある。

週刊新潮 2023年9月14日号掲載

特別読物「朝採り野菜がスーパーから消える 働き方改革で『低賃金』『過労死ワースト』 『35%が配達不能に』  迫る『物流2024年問題』で『トラックドライバー』にも言わせて」より

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