「ポリコレ臭は感じない」実写版「ワンピース」成功の背景を分析

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「少林サッカー」がきっかけ

 もちろんそれ以外にも理由はある。例えば、アメリカで製作されたことも大きい。「ワンピース」がテーマに掲げる、友情、冒険、勇気、夢は、アメリカのエンターテイメント作が最も好むと同時に、最も得意とするジャンルだからだ。当然といえば当然だが、「ファンが何を望むか」と「ドラマとしての面白さ」が交差した場所に何が必要なのかを、最も知っている国なのだ。

 タイミングもよかった。雑誌「クーリエ」のインタビューによれば、尾田が2001年の映画「少林サッカー」のマンガ的描写を見たことが、実写版の構想のきっかけだったという。そこから20余年の月日が流れた昨年には、「ソーセージ指」を映像化して大ヒットした映画「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」がオスカー作品賞を獲得した。作り手の側も観客の側も、そうした表現を受け入れ喝采する態勢が整った証拠でもある。

 さらに「映画」でなく、ドラマシリーズであることも大きな要素だろう。作品世界をどうにか2時間に収めるための余計な脚色が不要になるし、「これぞ」というエピソードを端折ることなく、キャラクターの感情を描けるからである。

無名俳優を抜擢する英断

 その上で、実写化成功に最も大きく影響した要素は、最高のキャストを見つけ出したことである。中でも「本当のルフィがいた」と尾田に言わしめたルフィ役のイニャキ・ゴドイ(20)と、ゾロ役の新田真剣佑(26)は特筆に値する。

 正直言って「実写のルフィを演じられる俳優なんて見つかるはずがない」と思っていたのだが、作品の中で元気いっぱいに飛び回るイニャギ・ゴドイは、人物としてのリアリティと同時に、マンガそのもののイメージを完璧に両立している。彼は必ずしも世界的に知られていた俳優ではないが、それを抜擢できる英断が素晴らしいのだ。もし日本で作っていたら、名の知れた大手事務所の俳優がそれらしい衣装やメイクで……と想像すると寒気がする。

 ゾロ役の新田真剣佑は必ずしもゾロに似ているとは思わないが、それをねじ伏せて余りある魅力――よりストイック、より寡黙、まさに美しく鋭利な日本刀のイメージで、太陽のようなイニャキ・ゴドイと対をなして作品を引っ張っている。

 さらに、日本語のボイスキャストはアニメの声優たちがそのまま担当している。特に日本のファンにとっては、これがほぼ「ダメ押し」といっていい。文句なしの『ワンピース』の世界が、ここに完成しているのだ。

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