映画のようにはいかない…「処理水の放出はテロ!」韓国の政治家が猛反発しても「反対運動」が盛り上がらない背景

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反対派・李氏への不信感

 以前であれば、原発の処理水問題を巡って、李在明氏は、「復讐の記憶」と同じように若者を取り込んで「一体どこの国の政府か!」と尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領を攻撃したであろう。しかし、今回の抗議活動は成功しているとは言い難い。

 処理水を“核廃水”と呼び、ハンガーストライキを表明した李氏を文在寅(ムン・ジェイン)前大統領も激励したというが、これには文氏のメイン支持者だった韓国人女性たちも冷めた目で見ているように感じられた。

 それもそのはず。李氏自身が知事時代の土地開発事業やサッカーチーム運営をめぐる不正などで在宅起訴されており、いわば“疑惑のデパート”となっているのだ。保身のためのパフォーマンスと受け取られるのも当然で、しかも来春には総選挙も控えている。政治的思惑があることは火を見るより明らかで、うんざりしている韓国人も少なくない。

 李氏が率いる「共に民主党」は「日本が太平洋を下水道にした」と訴え、あたかも尹大統領が日本に対して弱腰という印象を植え付けようとしているが、すでに韓国政府は日本に視察団を派遣。科学的に安全なことを確認している。

 それでも国民の不安は払拭されず、報道でも福島第一原発の処理水は相変わらず“汚染水”のままだ。世論調査でも処理水の放水に反対する人が今も8割近くいるのが現状で、抗議デモも行われている。

「日本に行けば、お寿司を食べる」

 だが、現地でこの話題を聞いてみると「政治的な動きと個人の感情はまったく別」という声が思いのほか多い。ソウルの海鮮料理店は閑古鳥が鳴いているという報道もやや事実と異なるようだ。

「実際、客足が遠のいた店も少なくないと感じる」「やはり口に入れるもの。日本は好きでも海産物を食べるのは少し抵抗がある」という韓国人もいる一方で、最近も市場で刺身を買ったという女性は「報道されているほど話題にはなっていない。冗談交じりに処理水の話が出ることはあっても、日本に行けば当然、お寿司を食べますよ!」と話す。

 処理水は海流の関係で広大な太平洋を一回りし、7~8年後に九州沖から韓国に回ってくるという報道もあったという。徴用工問題や対輸出規制強化をきっかけにして起こった2019年の反日デモであれほど日本産のものを避けていたのに、既にそのことを忘れかけている韓国だ。「今回の処理水についても、果たしてその頃まで覚えているかどうか」と疑問を口にする韓国人もいる。

「NO JAPAN」と大騒ぎしていた当時と違い、今は空前の日本旅行ブーム。多くの韓国人が日本を訪れて寿司やラーメンなどのグルメを存分に楽しんでいる。特に若い世代は、すぐにも「怖いから海産物は食べない」とはならないようだ。

 たしかに、韓国・東大門で人気の海鮮鍋の店は相変わらず繁盛していた。別の店ではアワビの醤油漬けを出されたが、周囲の韓国人らも躊躇することなく、美味しそうに食べていた。

 今回の騒動がどのように決着するのか分からないが、長引けば若い世代が再び“老人たちが続けている政争”に動員され、大好物の寿司さえも我慢することを強いられるのだろうか。だとすれば、それはまさに映画で老人の復讐劇に付き合わされた青年インギュのようで、巻き込まれ事故としか思えない。

児玉愛子(こだま・あいこ)
韓国コラムニスト。韓流エンタメ誌、ガイドブック等の企画、取材、執筆を行う韓国ウオッチャー。新聞や雑誌、Webサイトで韓国映画を紹介するほか、日韓関係についてのコラムを寄稿。

デイリー新潮編集部

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