出現自体が“事件” ラグビー界を変えたスター「ジョナ・ロムー」の怪物伝説(小林信也)
ジョナ・ロムーを知っているだろうか?
過去9回開催されたラグビーのW杯史上「最強」と語り継がれる伝説のトライ・ゲッター。
ロムーの出現は、世界のラグビー・ファンに衝撃と興奮をもたらした。身長196センチ、体重118キロ。その巨体で100メートル10秒5といわれるスピードと軽快なステップワークを兼ね備える。快速で頑強なウイング。ハンドリングもうまかった。
1995年南アフリカ大会。ニュージーランド代表、通称オールブラックスの11番は、初戦のアイルランド戦でいきなり観衆の度肝を抜いた。
密集から出たボールが左サイドで待ち構えるロムーの手に渡ると、目の前にアイルランドの13番、14番が待ち構えていたにもかかわらず、軽く肩で当たっただけで二人は簡単に崩れ落ち、無人の地平を行くがごとく、ロムーは涼しい顔でタッチダウン・エリアまでボールを運んだ。続けてロムーは、スピードに乗った状態で7番クロンフェルドからのパスを受けるとそのまま左サイドを美しいスピードで駆け、トライを決めた。
「ロムーがボールに触ると何かが起こります」「ジョナ・ロムーはラグビー界で前代未聞の男」と、海外の実況アナウンサーと解説者が興奮気味に叫ぶ映像がYouTubeに残されている。
さらに、ラグビーを中心に執筆するスポーツライターの大友信彦が雑誌「ナンバー」に“鮮明に残るナンバーワンの記憶”と書いているのが、準決勝イングランド戦でのロムーのトライだ。
〈ラグビーの歴史で「ザ・カーペット」と呼ばれるプレーです。いや、プレーと言うよりは「事件です」と言った方が正しいかな〉と大友は記している。
試合開始からわずか2分だった。SOバショップからのワイドなパスは左サイドを上がるロムーの頭を越えた。一瞬の乱れ。だが、やや下がりながらこのボールをワンバウンドで拾うと、ロムーは前進し、足元にタックルを受けてよろけながらも体勢を立て直し、そのままゴールラインの向こうに飛び込んだ。
その異次元の速さ、強さ、巧みさ。20歳のロムーの出現はまさに「事件」だった。
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