公判4日前に起訴取消し、それでも「謝罪はしません」と強弁した東京地検・女性検事の行状【大川原化工機冤罪事件】

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司法修習同期の思いとは

 高田弁護士によれば、塚部検事は弁護方針に強い反発を感じていたという。

「大川原化工機の社員への参考人聴取も窓口を私に一本化していたので、塚部検事は捜査を妨害していると考え、弁護士会に私の懲戒請求をしようとしているとも聞きました。(大川原化工機取締役の)初沢(悟)さんを呼び出して『弁護士にレクチャーを受けてるでしょ』なんて言っている。こういう話って、警察は取り調べ相手との雑談でしゃべっちゃうからわかるんですよ。司法修習で同期の検事や弁護士などからも、いろんな話が伝わるし……」

 弁護士の懲戒を考えている暇があったら、足元の捜査を吟味すべきだった。検察の特捜事件ではないとはいえ、これだけ大きくしようとした事案で、自身が直接会って取り調べたのは初沢氏一人というのも解せない。

 高田弁護士は続けた。

「塚部検事も私も司法修習52期で同期なんです」

 奇しくも同期には、土地売買を巡る横領の容疑で逮捕・起訴された不動産会社プレサンスの山岸忍社長の冤罪事件で、取り調べの際の暴言が問題になった田渕大輔検事がいる。

 山岸氏の著書『負けへんで! 東証一部上場企業社長vs地検特捜部』(文藝春秋)によると、田渕検事は山岸氏の部下の取り調べの際、「会社が非常な営業損害を受けたとか、株価が下がったとかいうことを受けたとしたら、あなたはその損害を賠償できますか。10億、20億では済まないですよね」などと恫喝。この様子の映像が法廷で流されたのだ。

 それを伝えると高田弁護士は「同期にはいろいろと賑やかな連中がいるようですね。どうしてなんでしょう」と苦笑した。

 難関試験を突破した司法修習の同期生は、非常に仲が良いと聞く。そんな中も、高田弁護士が同期と距離を置いて客観的に観察できるのは、法学部出身が大半を占める司法エリートの中にあって、東京大学薬学部出身という異色の経歴にあるのかもしれない。

「村木厚子さんの冤罪事件の時に大阪地検特捜部にいた塚部検事なら、捜査機関が捏造をすることがあることも学んだはず。貴重な経験を活かせたはずだったのに。20年の経験からの慢心や、身柄拘束を続ければ大川原社長らが関係者を慮って自白し、事なきを得るだろうといった人質司法への妄信もあったのでしょう」

もう一つの「取り消し」

 高い起訴有罪率を誇る検察庁にとって異例の起訴取り消しという大失態となったこの冤罪事件。実は密かに行われていたもう一つの「取り消し」があった。

 2020年3月に大川原社長ら3人が起訴されるや、警視庁公安部外事第一課は栄えある警察庁長官賞と警視総監賞を受賞している。さらに、宮園警部や安積警部補ら捏造捜査に関わった人たちも論功行賞を得ていたが、今年6月の証人尋問での「爆弾告白」の後、そっと取り消されたという(起訴後、宮園警部が警視に、安積警部補が警部に昇進したが、こちらはそのままのようだ)。

 国賠裁判の証人尋問で一捜査員が「捏造でした」と証言しただけだ。判決が出る前に取り消すのも驚くが、背景がある。今回のことが警察白書に不正輸出事件として手柄話的に書かれていたことが大川原化工機側からの指摘で明らかになり、警察庁が削除した経緯がある。論功行賞がそのままになっていれば、また批判が出かねないと恐れたのだろう。

 2人の警部補の勇気ある「捏造証言」の信用性を否定する弾劾証拠(証言や供述等の信用性を低下させるための証拠)も出せなかった警視庁は完敗だろう。あとは桃崎裁判長が検察、つまり国の責任を認めるかどうかだ。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部

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