「甲子園2時間ジャック」に「巨人ナインへ生卵50個攻撃」 大顰蹙を買った阪神ファン“恐怖の暴走史”

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「あっ、江川や。やったれ!」

 これまた雨天中止がきっかけで、一部のファンが暴徒化したのが、1983年3月21日に甲子園で行われた巨人とのオープン戦だった。

 この日は中止決定が13時35分まで遅れたことが、騒動の引き金となる。巨人ナインが4台のタクシーに分乗し、宿舎に引き揚げようとしたとき、先頭のタクシーに乗っていた江川卓を見た25歳くらいの男性が「あっ、江川や。やったれ!」と叫んだのを合図に、約400人のファンがタクシー目がけて軟式ボールやゲンコツ大の石、生卵などを一斉に投げつけた。「石や硬い物が車に当たった。怖かったです」(江川)。

 別のタクシーに乗っていた藤田元司監督も、取り囲んだ5人のファンがドアまで開けて生卵を投げつけてきたため、ウインドブレーカーとユニホームのズボンがぐっしょり。「こちらはユニホームを着ているから手出しできなかったが、あまりにもひどい」と怒り心頭だった。

 また、堀内恒夫は「一人の男が鉄パイプを振り回したときは、生きた心地がしなかったよ」と証言している。

 騒動は約10分で収まったが、中止決定前の練習中に原辰徳、中畑清らが右翼席から約50個の生卵を投げつけられるなど、事前に計画されていた可能性も強いことから、事態を重く見た甲子園署も、事実関係の調査に乗り出した。

 シーズン前のオープン戦といえども、何が起きるかわからないのが、群衆心理の怖さである。

抱いていた子供を投げつける事件も

 相手チームのファンと口論になった阪神ファンが激高のあまり、抱いていた子供を投げつける事件が起きたのが、2019年7月2日のDeNA戦である。この日までDeNAと3位で並んでいた阪神は、0対4で敗れ、4連敗で4位転落。ファンをガッカリさせた。

 そして、試合後の21時ごろ、阪神のレプリカユニホームを来て、3歳の長男を抱いた男性が、DeNAファンの男性と口論になり、数名の警備員に制止される騒ぎが起きる。

 男性は警備員に付き添われて現場を離れたが、途中でDeNAファンに向かって、上から子供を投げつけた。幸い子供にケガはなかったが、このシーンを撮影した動画がツイッター上に投稿されると、あまりにもショッキングな内容に、「最低な親」「阪神ファンとして恥ずかしい」「出入り禁止にしろ」などの非難コメントが相次ぎ、大炎上。熱烈な阪神ファンのタレント、ダンカンも「阪神ファンが全部悪いと思われるのが辛い」とコメントした。

 たとえ、騒ぎを起こしたのが一部のファンであっても、世間は“阪神ファン”と一括りに見てしまう。この一事を常に念頭に置いて、羽目を外し過ぎないよう、十分注意してほしいものだ。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

デイリー新潮編集部

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