ジャニーズ事務所会見から1週間、テレビはどう報じたか いまも“呪い”の解けない局が
NHK 「クローズアップ現代」でテレビが沈黙した理由を検証
NHKには民放の情報番組のように報道的なテーマについて、スタジオで議論しながら問題のありかを考えていく番組はほとんどない。ニュースではジャニーズ事務所の記者会見や被害者側の会見、それぞれの動きなどをその時々で断片的に伝えることが大半だ。ジャニーズ事務所の性加害については再発防止特別チームが「マスメディアの沈黙」だと指摘したが、報道機関が本来果たすべき役割と責任を果たせなかった面がある。
なぜそうなったのか。商業放送ゆえによりNHK以上に視聴率に左右されがちで、多数の売れっ子タレントを抱える大手芸能事務所の顔色を気にする民放テレビ局も公共報放送のNHKも、ともにジャニーズ事務所の性加害の問題で「沈黙」していた。そこに何があったのか。そうした自分たちテレビのあり方を検証しようとする動きを見せたテレビ番組があった。
NHKの「クローズアップ現代」だ。9月11日の放送ではNHKと民放の報道と芸能関係の幹部だった現役職員と元職員、計40人に調査した結果を伝えた。ジャニー喜多川氏の性加害を認めた東京高裁の判決が出て、最高裁で確定した2003年と2004年にはニュースなどできちんと報道することができたはずだと当時、NHKと民放の報道や芸能部門で幹部だった人物を取材することにしたという。
民放キー局で報道・情報番組でプロデューサーや解説者を務めた吉野嘉高氏は番組のインタビューに応じ、「ジャニーズには触れない」「ジャニーズネタは扱わない」という姿勢を「打算的に条件反射で覚えていった」と語る。
「ペン(報道)かパン(利益)かの選択において、結果的にはパン(利益)のほうを選択してしまった」と。
NHKで「紅白歌合戦」を統括する歌謡・演芸番組部長を務めた大鹿文明氏はジャニーズ事務所での“性加害”について「マスコミが加担したのではないかと言われることには責任を感じる」としながらも、当時、ジャニー氏は「未成年に対して許せないことをやっていたという意識は薄かった」とする。
「裁判を理由に『ジャニーズの起用をどうしようか」と言えば、『お前、おかしいんじゃないの?』と言われるような時代だった」という証言(NHKの元音楽番組プロデューサー)やジャニーズが使えなくなったら、ドラマも止まり、番組ができなくなる。どうするのか。考えるまでもなくNOだ(民放元編成幹部)という証言。さらに「番組を横断して調整する“ジャニ担”という御用聞きが局内にいて、その人物以外はジャニーズの話題に触れてはいけないし、マネージャーに電話すらできない状況だった。もしクビ覚悟で取材できたとしても、放送はできなかったと思う」という証言(元民放テレビ・報道番組プロデューサー)もあった。
桑子真帆キャスター自身も「報道番組として30年前から放送してきたこの『クローズアップ現代』でも取り扱ってきませんでした」と述べたが、現役職員や元職員らに聞き取ったメモを背景に立って「こうして見ますと、ドラマやエンターテイメント部門では問題に向きあおうとせず、報道では性被害や芸能界で起きることへの意識の低さがあった」と振り返った。
番組では「人権とビジネス」についてくわしい弁護士が「番組の検証はまだまだ突っ込み不足」だとして、第三者委員会を設置するなど、組織の体制の問題を徹底的に究明する事実調査が必要だと指摘した。
NHKや民放問わずにテレビ局の責任ある立場の人間を取材してそれぞれの意志決定(なぜ沈黙したのか)について明るみに出したのは今回が初めてで画期的な番組だった。今回は裁判の判決が高裁で確定した2003年、2004年前後の番組の責任者に絞って調査を行っただけだが、もっと広い範囲で調査を続けていけば、もっと明確に「マスメディアの沈黙」が明るみに出るだろう。またジャニーズ事務所側がメディア側にどのように圧力などをかけたのかについては、記者会見の際にも多くの記者たちが「不在」を批判した白波瀬傑前副社長(広報などを取り仕切っていたとされる)の証言は必須になるだろう。
NHKの検証の動きが今後、もっと広がっていくこと。民放でも同様の動きが生まれること。それを望みたい。それを果たしてこそ、テレビというメディアが本当に「人権」を守るメディアとして生まれ変わることになる。
今後、それぞれのテレビがどんなかたちで忖度したのかなど、組織ごとに検証して「マスメディアの沈黙」を二度とつくらないようにしてほしい。
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