ジャニーズ事務所会見から1週間、テレビはどう報じたか いまも“呪い”の解けない局が
フジテレビ 「Mr.サンデー」で他局に追いつき、谷原章介も橋下徹も……
ニュース番組での扱いを見る限り、フジテレビはジャニーズ事務所の性加害問題の報道にこれまであまり熱心だったとは言い難い。それがジャニーズ事務所の記者会見の当日には、東山新社長や藤島ジュリー景子前社長らの会見映像を他の局より長く使って報じていた。もともと災害報道や事件報道に定評がある一方で綿密な調査報道は苦手な印象があるテレビ局だ。ジャニーズ性加害問題では、先行するTBSや日テレに追いつくべく、「後追い取材」を堂々と重ねている印象がある。まず9月10日(日)の「Mr.サンデー」ではジャニーズ事務所の記者会見を迎えるまで苦労を重ねてきた被害者とその家族を取材した。70年前にジャニー喜多川氏から性被害を受けたことを明かした俳優・服部吉次さん(78)の妻で女優の石井くに子さん(74)の訴えを報道した。
「私だって服部(夫)が(性被害を)言ってから何回も吐き気がしているし、食欲はなくなるし、胸は痛いし……」と記者たちの前で性被害にあった男性の家族としてのつらさを怒りのあまり叫ぶ場面を放送した。
「これ以上、いじめないでよ。わなわなきて、私も血圧が上がっちゃったのよね」
そう語る石井くに子さん。その夫の服部吉次さんは8歳でジャニー喜多川氏による性被害にあった。服部さんの父親は著名な作曲家の服部良一氏。「東京ブギウギ」などの数多くのヒット曲を生み出して国民栄誉賞を受賞した人物だ。服部家はかつてジャニー氏と家族ぐるみのつき合いがあったが、家に泊まりに来ていた当時19歳のジャニー氏によって8歳の時に性被害を受けたことが今も深い傷になっているという。服部氏夫妻は以前、TBS「報道特集」にも登場している。「Mr.サンデー」は妻の石井くに子さんに焦点を当てながら、被害者本人のそばにいる家族も苦しんでいる実態を伝えた。元ジャニーズJr.の二本樹顕理さんも登場したが、彼も以前TBSや日本テレビなどの取材を受けた被害者の一人だ。二本木さんから「妻との性交渉の時にも(ジャニー氏による加害行為を)思い出してしまう」という言葉を引き出すことで、家族の苦悩も間接的に伝えようとしていた。
元ジャニーズJr.で13歳の時に性被害にあったという橋田康さんにも「人と触れ合うことも怖かったりだとかそういう時期も本当にあって苦しかった」という話を聞いている。
さらにイギリスの大物司会者で死後に50年以上にわたって10歳未満の子どもを含む男女に200件以上の性加害を行っていた事実が発覚したジミー・サビル氏の事件についても映像を交えて報道した。服部さん夫妻も二本木さんも橋田さんも、テレビで最初に取材して放送したのはTBSだった。サビル氏の事件も最初はTBS「報道特集」の特集で紹介された。
フジの「Mr.サンデー」は、これまで先行した局が取材してきた人たちを(被害者本人だけでなく、家族など周囲にも性被害の後遺症で苦しめられたという)「少し違う視点で」報道しようとしたのだった。
ジャニーズ事務所の記者会見を受けて、フジテレビはそれまで先行していたTBS、日テレの「後追い」であることを承知の上でどうにか追いつこうと必死に素材を集めて報道している印象がある。
フジで日曜日の朝に国際情勢などを政治家らと語り合う報道番組「日曜討論 THE PRIME」も9月10日の放送でキャスターの橋下徹氏が番組の最後に提言した。
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(橋下徹)
「国際社会からの視点を考えた時に社名をそのまま維持するというのはどうなのか。(中略)これはファンに支えられているということがあったとしても、国際社会的にはジャニーズという名前を残すことは許されないと思うし、グローバルな企業の株主も許さないと思う。民間企業としての企業再生の原理原則からはこういう場合には社名を変更するのが原理原則です。藤島ジュリー景子前社長が100%株を所有し続けるということも多くの企業は許さないところがあると思います。テレビ業界はジャニーズ事務所とのつき合いでいろいろな事情があるのでしょうけど、日本社会を変えていくという視点でテレビ局も考えてもらいたい」
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トーク・バラエティー番組「ワイドナショー」では芸人たちがジャニーズ事務所の会見について感想を語りあった。これは本音のトークが混じって味わい深い。
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Qジャニーズ事務所の会見を見た感想は?
(田村淳)
「新しく会社を建て直すという視点では、僕はやっぱり覚悟が見受けられないなと思いました。社名変更は必ずすると思っていたので……」
<東野幸治>
「僕も思っていました」
<高橋真麻>
「私だったらタレントが所属する事務所は外部資本にして新しく開設して、そこにタレントを移す。ジャニーズの名前を残したいんだったら、被害にあった人たちを救済する組織としてジュリーさんと東山さんはそちらに特化されたほうが、(組織を)分けた方がいいのでは?」
Q「メディアの沈黙」については?
(東野幸治)
「ジャニーズ事務所の性加害についてのワイドショーでの取り上げ方とか、少しずつ少しずつ長くなって、この『ワイドナショー』でもこれぐらい(両手の幅を広げて)、たくさんしゃべれるように……」
(田村淳)
「(今は)しっかりとしゃべっていますよね」
(東野幸治)
「1週間前に(再発防止特別チームから)『メディアの沈黙』と言われたわけですが、それは感じますか?」
(田村淳)
「1週間前にメディアの沈黙のことを第三者委員会(注・特別チームのこと)が言った時に『自分も当事者だな』と思いました。だって噂とかあったもの……。それを噂だけにしちゃって、どこかすごいリアリティーのある噂なのに……踏み込まなかった自分を恥じますし……」
(高橋真麻)
「メディアにいた一員としても、なんとなく会社がそういう方針だったら、一社員としてはそれに乗っかるしかなかった、というのは反省していますが、今回の件はBBCが最初一報を報じた時もほとんどどこも取り上げずで……。ことがだんだん大きくなっていくから、各社なんとなく横を見て、足並みを揃えて放送時間を延ばしていって……、というのがまさにそれ(メディアの沈黙)を体言しているなあと思います」
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タレントたちが言うように、性加害問題は少しずつ少しずつ(テレビでも)話せる話題になっていった。そうしたトークで自分たちのことをふり返りながら“忖度”について話ができるようになってきたのは健全なことだ。
いかにもお笑い番組を大事にしてきた局らしく、笑いを交えて「メディアの沈黙」について語っていこうという姿勢なのはフジらしいのかもしれない。
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