「家でどうしても食べられない一品があるの」妻の浮気を咎めたら思わぬ反論が…44歳夫が何も反論できなかったのは何故か

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また人との距離感がわからなくなっている

 性欲を解消してきただけ、というのは夏海さんの本音なのだろう。家庭を壊したくないから、性欲だけは外注しているというのも。一方で、良智さんは確かに心を優子さんに預けた面がある。

「あなたのほうが罪は重いと夏海は言うんです。いや、オレは深い関係にはなってないし、なるつもりもないと言い返しました。『私は肉体関係だけよ。気持ちはまったく移していない。家でどうしても食べられない一品があるから、それだけは外で食べる。そういうこと。でもあなたは食事そのものを外で食べればいいと思ってる』と言われました。喩えが違うような気もしたけど反論できなかった」

 いいじゃない、そういうことでと夏海さんは言った。それからも、ときおり帰宅が遅くなるが、彼女は言い訳すらしなくなった。良智さんも、今もときどき優子さんの店に行っている。

「夏海との関係は特に変わっていません。この夏も家族で旅行したし、夏海自身も今まで通り僕に接してくれている。それが嘘だとは思えないんです。ただ、僕自身は割り切れないところがあって、気持ちがギクシャクしてしまう。また人との距離感がわからなくなっている。僕はこのままでいいとは思ってないんです。だけど、無理して妻とセックスをすれば解決するとも思えない」

 無条件で幸せだと思ったころと比べると、心の中に暗雲が垂れ込めている。どうすればそれが晴れるのかもわからない。ふーっと、大きなため息をついて彼は黙り込んだ。

前編【「義母と妹は生姜焼き、僕はキャベツだけ。酒浸りの父は、ある日突然…」壮絶な10代を送った44歳男性の大きすぎた後遺症】からのつづき

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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