「相棒」撮影開始はいつも真夏! 水谷豊が汗ひとつかかずスーツを着こなす秘密を明かす
『相棒』の撮影は、毎年、7月下旬から8月上旬という真夏にスタートする。イギリス留学、ロンドン警視庁在席の経験がある杉下右京(水谷豊)は、亀山薫(寺脇康文)のようにTシャツや開襟シャツなどのカジュアルな服装はせず、常に英国風スーツを着用。そのスタイルを決して崩さないので、汗だくの撮影になってもおかしくないのだが──。
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水谷本人が語った撮影に有利な特異体質や、初の海外ロケが成り行き任せだったという意外なエピソードを、「こんなに自分の過去を振り返ろうとしたことは一度もなかった」という初めての著作『水谷豊 自伝』から抜粋で紹介する。
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2003年10月8日に放映されたシーズン2第1話「ロンドンからの帰還 ベラドンナの赤い罠」は、右京のロンドン生活から始まった。シーズン1の終わりで警察学校の教官になった右京が休職中に渡英。ロンドンに滞在しているという設定である。
この撮影で、水谷は『相棒』初の海外ロケを経験している。
「和泉(聖治)監督が、『豊さん、ちょっとね、イギリスに行って来てほしいんだ』とか言うんですよ。『右京の向こうでの生活を見せたいので、撮影してきてほしい』と。メンバーは僕の他に衣裳とかメイク道具を運ぶマネージャー、カメラマン、プロデューサーが2人の計5人です。限られた人数だから効率を考えて、渡航の前には向こうではどうしよう、こうしようと大まかなことを話し合って、3泊5日で行くことに決まりました。滞在中にウエストエンドの劇場で『キャバレー』の舞台を観る予定も入れたんです」
本隊が東京で撮影している間に、水谷のご一行はロンドンロケを敢行。なかば行き当たりばったりのロケだったが、これが逆に幸いした。市内を歩き回っているときのことだった。
「ベーカーストリート駅の前を歩いているうちに、シャーロック・ホームズの銅像を見つけたんです。狙ったわけではなく、たまたま見つけたので、じゃあ、挨拶をしなくてはと帽子をとって会釈しました。右京が『おや、こんな所に』という表情で銅像を見上げる姿が、リアルに映っていますよね」
そのあと、右京が「アリス」という名前の女性の墓に花束を供え、意味ありげに祈るシーンも、計算されたものではなかった。
「あれもたまたまアリスだったんです。それがアリスの謎とか言われて、いつかアリスが登場するぞ、と期待した人もいたようだけど、僕も右京とアリスには何かあったと思いながら手を合わせていたんですね。最初にアリスという名前を決めて、探したわけではないです」
3泊5日のタイトなスケジュールでも、『キャバレー』の舞台はきっちり観劇したという。
「『ハリー・ポッター』の舞台になったキングス・クロス駅へも行きました。メイキングのような撮影だったけど、放送されたら評判がよかった。こういうことができるのも、なんでもありの『相棒』だからですね」
ロンドンロケはまた、水谷にある人物との出会いをもたらした。ロケに同行したカメラマンの会田正裕である。会田はシーズン2から『相棒』に加わったばかりのカメラマンで、撮影監督を任されるのは後年のことだ。
「会(田)ちゃんの、カメラワークだけではなく、照明も作りながらの映像に僕はすっかり惚れ込んでしまいました。撮影監督になってからは『相棒カラー』と言われる画質を生み出し、更に進化を追求し続けているんです。そんな会ちゃんの姿勢には、信頼と尊敬の念を抱いています。『会ちゃん、こんなことできるかな?』恐らく困難だろうと思いながら尋ねたことも、会ちゃんは必ず『できます』と応えてくれます。こちらのイメージを様々なアイデアを駆使して画にしてくれるんですね。予想を超える映像を撮ってくれたことも多々あります。僕が60代になってから監督をやる決意をしたのも、会ちゃんとの出会いがその一つの要因になっていることは間違いありません」
一方の会田もまた、水谷への思いは熱く、ともに仕事ができることの喜びを隠さない。
〈もともと『熱中時代』からずっと豊さんのファンで、ミーハー的ですけど『撮ってみたいな』と思っていました。特に和泉監督の長回しで見る豊さんが素敵だったので、別の東映作品に関わったときにぜひ『相棒』をやらせてほしいとプロデューサーにお願いしたんです(中略)。実は自分的には、一番のキメのセリフじゃなくて、豊さんが歩いているシーンとか(中略)。何気ないところに快感のポイントがあるんですよ〉(『オフィシャルガイドブック相棒―劇場版』扶桑社)
ミスターサマー
『相棒』の撮影は、毎年、7月下旬から8月上旬という真夏にスタートする。
杉下右京は亀山薫のようにTシャツや開襟シャツなどのカジュアルな服装はせず、常にスーツ姿なので、汗だくの撮影になるはずなのだが──。
「僕は夏に強いんです。みんなに驚かれるほど汗が出ないんですよ。スーツにネクタイを締めていても、涼しい顔をしているんです。『暑いですね』と言われたら、一応『暑いですね』と合わせるけど、それほど暑さは感じていない。ミスターサマーですね」
日本の蒸し暑い夏にぴったりの体質である。
「便利でしょう? 僕は、夏バテというのは経験がないんです。気温が37度くらいの日に三つ揃いを着て、炎天下でのロケを3日間続けたときも、まったく平気だった。周りを見ると、捜査一課の三人組刑事もみんなスーツを着ているから汗だくになってる。ワイシャツなんか、汗で張り付いてそれは大変なんです。彼らはカットがかかったら、すぐにネクタイを外して、首を冷やしたりしてますね」
メイク担当にとって、汗をかかない水谷はありがたい存在だろう。
「喜ばれますね。メイクがあまり崩れないので、手間がかからない」
その昔、プロの俳優は顔に汗をかかないと言われたものだが、水谷もそうだった。
「だけど、僕は冬が駄目だったんですよ。血圧が凄く低かったので、冬は身体が動かないんです。仕事をしたくなくて、冬に休めるような職業はないだろうかと、本気で考えたりしていた。もう朝起きるのが嫌で嫌で嫌でね。冬は耐え難かったな」
ところがあるとき、体質が変化していることに気がついた。
「あれっ、と思ったんだけど、冬も早く起きられるようになっていて、早朝の撮影が苦痛ではなくなっていたんです。これはもう、齢をとって全身の細胞が寒さをキャッチしなくなったんじゃないかと(笑)。血圧も若い頃より高くなったし」
そのときから、ミスターサマーは返上した。
「今はミスターオールシーズンです」
※水谷豊・松田美智子共著『水谷豊 自伝』から一部を抜粋、再構成。