遺言が無効になるケースは? 成年後見の落とし穴とは? 父が認知症だった弁護士が語る注意点
警察からの着信履歴
〈認知症を巡る法律問題は財産関係だけではない。2016年には認知症患者が線路に立ち入ったことによる鉄道事故で、家族は賠償責任を負うかが最高裁で争われた。この裁判は家族側の逆転勝訴となったが、認知症患者の外出には、損害賠償の心配も付きまとう。
浅井氏自身、父が認知症と診断された後の11年6月、恐れていた事態に直面することになったという。〉
ある日、仕事の合間に携帯を確認すると「052-×××-0110」という番号からの着信が残っていたんです。「052」は両親が住む名古屋の市外局番。職業柄「0110」が警察署によくある番号だと知っていた私は、着信履歴を一目見てピンときました。悪い予感は的中。父がスーパーで98円の団子を万引きし、警察に保護されたのです。
事故を防ぐために
父の財布には、このようなことが起きたときのために現金の他に私と母の連絡先を書いたメモを入れていました。警察の方もそのメモから認知症患者であることを察し、逮捕という事態を避けることができました。
他方、万引きを起こして初めて家族が異変に気付く場合も少なくありません。そういったケースでは、なかなか釈放されない事態もあり得るでしょう。
認知症患者が外出中に物を壊して損害賠償を請求されたときに、補償を受けられる損害保険に自治体の負担で加入できることもあります。また、認知症患者の行方不明に備えてGPS端末を貸し出す自治体もあります。以前に比べてこのような事業を実施する自治体は増えましたが、それでもまだ全部の自治体には至りません。今年、認知症基本法が成立しました。認知症患者の移動の自由を保障する施策として保険事業を導入する自治体は今後さらに増えるでしょう。お住まいの自治体の役所に問い合わせてみるといいと思います。
事故を防ぐため、認知症患者を家から極力出さないという考え方もあるかもしれません。しかし、うちの場合は、「本人がしたいなら希望通りに」という方針を取っていました。
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