遺言が無効になるケースは? 成年後見の落とし穴とは? 父が認知症だった弁護士が語る注意点
成年後見の申し立てを勧められたが…
結局、主治医の勧めもあり、10年の暮れに精神科を受診。前頭側頭型認知症の診断が下されたのです。
〈前頭側頭型認知症は認知症患者全体の数%と、アルツハイマー型や脳血管性認知症などに比べ患者の数は圧倒的に少ないが、認知症の中では唯一難病指定されている病気でもある。認知機能の低下に加え、人格が変わったり、無気力になったりするのが、この認知症の特徴だ。〉
介護保険を利用するため、父は後に要介護の認定を受けましたが、その際、医師からは成年後見の申し立てをするよう勧められました。
成年後見は認知症に限らず「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある」と家庭裁判所が認定した場合に、裁判所から選任された弁護士などが本人の財産を管理するというもの。施設などの入所契約を後見人が代理して結ぶことができるほか、日用品の購入や日常生活に関する行為を除いて、本人が他人と結んだ契約を取り消すことができたりします。
しかし、この制度の利用には注意点もあります。
成年後見の落とし穴
まず、弁護士や司法書士など専門家に後見人になってもらう場合、毎月数万円の報酬を支払う必要があるということ。認知症の場合、「事理を弁識する能力」が回復することはまずありませんから、本人や親族が「やめたい」と言っても簡単にやめることはできません。つまり一度後見が開始されれば本人が亡くなるまで報酬支払いが続きます。
他方で、財産管理を厳格に遂行しすぎる余り、本人やその家族にとって使いにくい制度になってしまうこともあります。後見が開始されると、家族の生活に必要なお金でも、後見人が首を縦に振らない限り、本人名義の預金の使い道が著しく制限されることがあります。後見が開始されたことで、それまでの生活の仕方を大きく変えられてしまうと、使いにくいと感じる人もいるのではないでしょうか。
実際、本人や家族とのトラブルも聞きます。家族に後見の申し立てをされた本人が財産を奪われたと勘違いして、弁護士が暴行を受けるというケースもあるくらいですから。
私の父は成年後見制度を利用しませんでした。そもそも、わが家では父が認知症になる前から、通帳やキャッシュカードの管理は母が行い、母が父の給与口座から生活費を引き出して諸々の支払いに充てていた。父が認知症になろうとその習慣は変わりませんから、特に後見制度を利用する必要がなかったのです。また、認知症患者の病院・施設費用の支払いに充てる場合に限り、家族による本人名義の預金引き出しを認める銀行もあります。
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